国語辞典





国語辞典(こくごじてん)とは、日本語の単語・連語・句などを規則的に配列し(主に五十音順)、説明した書物。見出しに立てた言葉の仮名遣いやアクセント、漢字表記、品詞、使用分野、意味、用法、さらには類義語、対義語、用例、文献上の初出例などの情報が示される。国語辞書日本語辞典日本語辞書とも言う。


現在は、約50万語を収める最大規模の『日本国語大辞典』(小学館)を始め、種々の中型辞典(10〜20万語規模)や、小型辞典(6万〜10万語規模)が編纂され、特色を競っている。また、電子辞書やインターネット辞書も、近年利用者を増やしている。これら電子版の内容は書物版に基くものが大多数だが、「デイリー新語辞典」(三省堂提供)のように、毎月200語程度の言葉を追加収録するものもある。




目次






  • 1 構成


    • 1.1 見出し


    • 1.2 排列




  • 2 歴史


    • 2.1 近代以前


    • 2.2 近代以降戦前まで


    • 2.3 戦後から現代まで




  • 3 参考文献


  • 4 脚注


  • 5 関連項目





構成



見出し


一般的に国語辞典の見出しは「かな/カナ表記【漢字/アルファベット表記】」のように書かれる(例:こくご【国語】、ディクショナリー【dictionary】)。また、それぞれの詳細は以下の通り。















かな表記

仮名遣いは基本的に「現代仮名遣い」(昭和61年7月内閣告示)が用いられる。
和語や漢語にはひらがなを用いる(例:ごい【語彙】)。
外来語にはカタカナを用い、外来語の長音には「ー」を用いる(例:ボキャブラリー【vocabulary】)。
活字はアンチック体やゴシック体が用いられることが多い。
活用のある語は原則として終止形を見出し語とする。
漢字表記
原則として現代の辞書に使用される漢字は、「常用漢字表」あるいは「人名用漢字表」における新字体が用いられる。
送り仮名は「送り仮名の付け方」(昭和48年6月内閣告示)による。
外来語表記
表記欄に外来語表記を掲げる国語辞典もある。その場合、英語以外の語については言語名が注記されることも多い。
中国語などの場合には、そのまま原語の漢字表記が置かれることもある。
なお、原語から著しく乖離あるいは和製英語の場合には別の括弧で注記することが多い。

語義がほぼ同じである場合は、見出しの表記が少々異なる語も一つの項にまとめられる。語義が異なる場合には別項とする(例:じてん【字典】、じてん【辞典】、じてん【事典】)。



排列


近代以後の国語辞典は、項目を五十音順に排列する(江戸時代はいろは順であった)。個々の辞典によって細部は異なるが基本的なルールはだいたい同じである。他の事典類では長音記号を無視したような順で並べるものが多いが、国語辞典では長音記号の発音に該当する母音があるものとするものが多い、といった違いがある。




  • 清音、濁音、半濁音については、そのまま清音、濁音、半濁音の順となる(例:はり【玻璃】、ばり【罵詈】、パリ【Paris】)。


  • 直音、促音、拗音については国語辞典により異なる。

    • 直音、促音・拗音の順とするもの(例:めつき【目付き】、めっき【鍍金】の順)。集文館『新選国語辞典』など。

    • 促音・拗音、直音の順とするもの(例:めっき【鍍金】、めつき【目付き】の順)。岩波書店『広辞苑』など。




  • 長音についても国語辞典により異なる。

    • 直上のカタカナの母音に相当する音が続いているものとみて扱うもの(例:アート【art】を「アアト」の位置に配置)。岩波書店『広辞苑』など。

    • 長音符を見出し語の配列には関係ないものとして扱うもの(例:アート【art】を「アト」の位置に配置)。集文館『新選国語辞典』など。




  • 複合語についても国語辞典により異なる。

    • 親項目に続けてインデントを下げて配置するもの(例:こくごきょういく【国語教育】やこくごしんぎかい【国語審議会】をこくご【国語】を親項目としてその中に配置)。

    • 完全に独立項目とするもの(例:こくごきょういく【国語教育】やこくごしんぎかい【国語審議会】をこくご【国語】とは別項目として配置)。



  • 同音の場合の配列についても国語辞典により異なる。



歴史



近代以前


日本書紀によれば、日本人が手がけた最初の辞書は682年(天武天皇11年)に完成した『新字』といわれる(「三月の(略)丙午に、境部連石積等に命じて、更に肇(はじ)めて新字一部四十四巻を造らしむ」)。ただし、その内容は伝わらず、真偽は不明である。


日本で作られた現存最古の辞書は、空海の編纂になる『篆隷万象名義(てんれいばんしょうめいぎ)』(承和2年・835年以前成立)で、高山寺に唯一の古写本が伝わっている[1]。但しこれは漢字に簡潔な漢文注を付したものである。和語(和訓)が載ったものとしては、『新撰字鏡』(寛平4年-昌泰3年・892年-900年)、『和名類聚抄』(承平4年・934年)、『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)』(11世紀末-12世紀頃)、『色葉字類抄』(12世紀、鎌倉初期に増補して十巻本としたのが『伊呂波字類抄』)といった辞書が編まれたが、これらは厳密には漢籍を読むための漢和辞典もしくは漢字・漢語を知るための和漢辞典であると考えるべきで、現在の国語辞典の概念からは遠い。


15世紀になると、「節用集(せつようしゅう・せっちょうしゅう)」という、日常接する単語をいろは順に並べた「字引」形式の書物が広まった。漢字熟語を多数掲出して、それに読み仮名をつけただけのもので、もとより意味などの記述はない。それでも、日常の文章を書くためには十分であった。「節用集」の写本は多く現存し、文明本(文明6年・1474年頃成立)、黒本本、饅頭屋本、前田本、易林本などが知られる。江戸時代には「節用集」はますます広く利用され、辞書の代名詞となった。


近世には、石川雅望『雅言集覧』、太田全斎『俚言集覧』、谷川士清『和訓栞(わくんのしおり)』といった辞書が出た(以上が三大辞書といわれる)。『雅言集覧』はいわば古語辞典であるが、『俚言集覧』のほうは当時の俗語に焦点を当てたもので、今日の国語辞典の概念により近い。語をアカサタナ順に並べ、たまに出典や説明を付している。ただし、『俚言集覧』が一般に広まるのは、明治になって、1899年に『増補俚言集覧』として刊行されて以降である。また、『和訓栞』は、見出し語の下に語釈・用例をかなり細かく示している(前編は古語・雅語、中編は雅語、後編は方言・俗語を収める)。しかし、刊行は非常に気長であった。前編が1777年に出たにもかかわらず、後編の完結は、やはり明治になってからで、1887年のことである。



近代以降戦前まで


近代国語辞典の始まりは『言海』であると一般に認められている。もっとも、当然、その前段があった。


文部省編輯寮では『語彙』という辞書の編集が進められた[2]。ところが、議論にのみ日を費やして、1871年に「あ」の部が成立した後、「え」の部まで出たところで頓挫した。


1885年には近藤真琴編『ことばのその』、1888年〜1889年には高橋五郎編『和漢雅俗いろは辞典』、1888年には物集高見(もずめたかみ)編『ことばのはやし』、1888年には高橋五郎編『漢英対照いろは辞典』が刊行されている。


『言海』は、『語彙』の失敗に鑑みて、文部省の命により、大槻文彦のほぼ独力によって編集が進められた。成稿の後、資金不足のため、しばらく文部省内に保管されたままだったが、1889年から1891年に私費で刊行された(当初は全4冊)。本文約1000ページ、3万9000語を収録する、初の本格的な小型国語辞典である。語釈もきわめて詳しく記された。後に、吉川弘文館などから1冊本として刊行されるようになった。その後も印刷を重ね、1949年に第1000刷を迎えた。


大槻はこの辞書にほとんど全精力を注いだ。編纂中、幼い娘、そして妻を相次いで病気で亡くし、その悲嘆のうちに本書を刊行したことは、『言海』末尾の「ことばのうみ の おくがき」に詳しい。


『言海』以降の主な辞書を以下に示す。



























































































































辞書名 出版所 刊行年 編纂 大きさ 詳細
『日本大辞書』 日本大辞書発行所
1892年 - 1893年
山田美妙 中型 口語体。アクセントのついた辞書。
『日本大辞林』 宮内省 1894年 物集高見
『帝国大辞典』 三省堂 1896年
藤井乙男
草野清民

『日本新辞林』 三省堂 1897年
林甕臣
棚橋一郎

『ことばの泉』 大倉書店
1898年 - 1899年
落合直文
『辞林』 三省堂 1907年 金沢庄三郎
『大日本国語辞典』
冨山房
金港堂

1915年 - 1919年

松井簡治
上田万年[3]
中型 約20万語の本格的な辞書。現在の『日本国語大辞典』につながる存在。
『言泉』 大倉書店 1921年 落合直文[4]
『広辞林』 三省堂 1925年 金沢庄三郎
1934年に新訂版、1983年に新版が出版される[5]
『小辞林』 三省堂 1928年 金沢庄三郎 小型 非常に普及し、1956年ごろまで印刷を重ねた。
『大言海』 冨山房
1932年 - 1935年
大槻文彦[6]
中型 『言海』の増補改訂版。語源の記述が独特で、用例が豊富になっている。
『辞苑』 博文館 1935年 新村出 先行の『大日本国語辞典』『広辞林』『言泉』を引き写していると指摘されている。
『大辞典』 平凡社 1936年
石川貞吉ほか

『明解国語辞典』 三省堂 1943年
金田一京助[7]
小型 現代語を中心に編纂。1952年に改訂版が出版される。


戦後から現代まで



















































































































































































































辞書名 出版所 刊行年 編纂 大きさ 詳細
『辞海』 三省堂 1947年 金田一京助
研究者、国語教師などから高く評価されたが、実際の販売は好調とは言えず、改訂されることなく、品切れとなった。
『言林』 全国書房 1949年 新村出
1961年に新版。
『ローマ字で引く国語新辞典』 研究社 1952年
福原麟太郎
山岸徳平
小型 一語一語に英訳を付記。
『広辞苑』 岩波書店
1955年〔初版〕
新村出 中型 広く支持され、ベストセラーとなった[8]
『ポケット言林』 全国書房 1955年 新村出
『例解国語辞典』 中教出版 1956年 時枝誠記 小型 すべての項目に使用例を付した。
『新選国語辞典』 小学館
1959年〔初版〕
金田一京助
佐伯梅友[9]
小型 収録した語の数とその内訳を曖昧にせず、詳しく示している。
巻末の「漢字解説」は熟語を構成する漢字の意味を知るのに役立つ。
『三省堂国語辞典』 三省堂
1960年〔初版〕
見坊豪紀 小型 新しく定着しつつある言葉を見逃さず取り入れることでは他の追随を許さない[10]
『旺文社国語辞典』 旺文社
1960年〔初版〕

松村明
山口明穂
和田利政
池田和臣
小型 日常生活に必要な語をはじめ、科学技術・情報・医学などの最新語、和歌(百人一首・現代短歌)・現代俳句や、人名・地名・作品名などの固有名詞、故事ことわざ・慣用句を豊富に収録。
常用漢字・人名用漢字はすべて見出しとして収載。
『岩波国語辞典』 岩波書店
1963年〔初版〕

西尾実
岩淵悦太郎
水谷静夫
小型
規範主義を徹底し、最近の新語や俗語に対して保守的な態度をとる。
スマートな語釈に定評があり、例えば「右」の語釈に「…この辞典を開いて読む時、偶数ページのある側を言う。」とあるのは秀逸とされる。
『学習国語辞典』 文英堂 1967年 時枝誠記 小型 初めて辞書を引く人にも正しい引き方がわかる辞書。
小・中学生の引きたい言葉がすべて載っている。
『新明解国語辞典』 三省堂
1972年〔初版〕

山田忠雄ら
小型 主幹の山田の個性を反映した、独特の語釈で人気がある。
ある動詞がどのような助詞を取るかなどについての情報も詳しい。
『日本国語大辞典』 小学館 1972年 - 1976年〔初版〕 大型 唯一の大型日本語辞典。松井栄一が中心となり、ほとんど学界総がかりで編集に当たる。
初版は全20巻、後に縮刷版全10巻で語数は約45万語。
第2版(2000年-2002年)は全13巻で語数は約50万語になった。
現存するあらゆる日本語の文献を視野に用例を取り、最古例・主な例を示す。
『角川国語中辞典』 角川書店 1973年 時枝誠記[11]
吉田精一
現代語を先に記述する方式をとった最初の辞書。見出し語数は約15万語。
9年後に『角川国語大辞典』を出版する[12]
『学研国語大辞典』 学習研究社
1978年〔初版〕

金田一春彦
池田弥三郎
文学作品からの用例が多い。
『日本大辞典 言泉』 日本図書センター
1981年〔初版〕

芳賀矢一改修。
全6巻。『言泉』1921年落合直文編の復刻版。大正時代の言葉を知ることができる。
『新潮現代国語辞典』 新潮社
1985年〔初版〕

山田俊雄
白藤禮幸ら
小型
漢語に強い。現代文学から用例を多く採る。
『国語大辞典 言泉』 小学館
1986年〔初版〕

林大監修
中型 日本国語大辞典をベースとしていることが特徴。他の『言泉』との関連はない。
『大辞林』 三省堂
1988年〔初版〕
松村明 中型 『広辞林』の改訂では『広辞苑』に対抗できないと認識した三省堂が、倒産をはさんだ28年間をかけて編纂した。
語釈を、現代広く使われているものから順に記すなど、現代語主義を取る。
インターネット上で第2版、第3版が提供されている。
『日本語大辞典』 講談社
1989年〔初版〕

梅棹忠夫
金田一春彦ら
中型 国語辞典と百科事典の両方の特徴を持つ。
同辞典の冒頭の『序』によると、国際化が進む中での日本語の現状を、情報処理の能率も鑑みながら、日本語の歴史的な背景も視野に入れ、将来を含めて考察するための材料を提供することを目的とする。
『集英社国語辞典』 集英社
1993年〔初版〕

森岡健二
徳川宗賢
川端善明
中村明
星野晃一
中型に近い小型 語数は約9万4000語。
この規模の辞書では初めて横組み版も発売された。
文法項目の用例に分かりやすい唱歌などを用いている。
『辞林21』 三省堂 1993年 松村明
佐和隆光
養老孟司(監修者)
中型 横組み。語数は約15万語。百科事典、カタカナ語辞典、人名事典、地名辞典、アルファベット略語辞典、ワープロ漢字字典としての機能を併せもつ。
『角川必携国語辞典』 角川書店 1995年
大野晋
田中章夫
小型 間違いやすい言葉の使い分けを丁寧な解説によるコラムで紹介する。
文法などの国語関連の項目を載せ、百科事典のような項目を幅広く採用している。
漢字に詳しく、書き順も記載されている他に、古語や類義語も充実している。
『明鏡国語辞典』 大修館書店
2002年〔初版〕
北原保雄 小型 文法項目に力を注ぎ、たとえば助詞の「が」の説明だけで1ページ以上ある。
『小学館日本語新辞典』 小学館
2005年〔初版〕
松井栄一 小型[13]
類義語の使い分けが詳しい。
意味などがよく問題になる語について、コラムで詳述する。

近年、電子辞書の発達・普及が目覚ましく、書籍版の辞書は押される傾向にある。電子辞書は、書籍版のように全体を一目で見渡せる一覧性には乏しいものの、携帯性に優れるなどの利点があり、愛用者を増やしている。ウェブサイトにより提供されるインターネット辞書(無料版が多い)も多数の利用者がいる。



参考文献



  • 山田忠雄『近代国語辞書の歩み その摸倣と創意と』(上下2冊)三省堂 1981年


  • 武藤康史『明解物語』三省堂 2001年


『明解国語辞典』と、そこから生まれた『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』の歴史。


  • 武藤康史『国語辞典の名語釈』三省堂 2002年

  • 紀田順一郎・山口明穂・竹林滋・金田一春彦・阿辻哲次『日本の辞書の歩み』辞典協会 1996年

  • 金武伸弥『『広辞苑』は信頼できるか 国語辞典100項目チェックランキング』講談社 2000年

  • 松井栄一『出逢った日本語・50万語 辞書作り三代の軌跡』小学館 2002年


『大日本国語辞典』を作った祖父・松井簡治、父・驥、そして『日本国語大辞典』に関わった著者の仕事をつづる。


  • 倉島長正『日本語一〇〇年の鼓動 日本人なら知っておきたい国語辞典誕生のいきさつ』小学館 2003年

  • 石山茂利夫『国語辞書事件簿』草思社 2004年


『広辞苑』の親辞書『辞苑』の模倣問題などについて。

  • 松井栄一『国語辞典はこうして作る 理想の辞書をめざして』港の人 2005年


脚注




  1. ^ “世界遺産 栂尾山 高山寺 公式ホームページ”. 高山寺. 2018年10月19日閲覧。


  2. ^ 文化庁「国語施策年表」『国語施策百年史』2006年、920頁


  3. ^ 名前を貸しただけで、編纂はほぼ松井の独力。


  4. ^ 大正10年大倉書店発行、東京市日本橋區壹丁目四番地一。復刻版は『日本大辞典 言泉』1981年(昭和56年)5月日本図書センター、文京区大塚3丁目


  5. ^ 三省堂-広辞林 第六版


  6. ^ 大槻の死後に刊行


  7. ^ 実際は見坊豪紀のほぼ独力による辞書。


  8. ^ 出版当時、匹敵する規模の辞書が同時代に無かったため


  9. ^ 後に大石初太郎・野村雅昭が参加


  10. ^ 見坊は、この辞書の編纂のために、生涯に約140万語に及ぶ現代語の採集カードを作った


  11. ^ 1967年に編纂の半ばで鬼籍に入る


  12. ^ しかし、見出し語数は5000語程度の増加でしかない


  13. ^ 判型は大きめ



関連項目




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