世界金融危機 (2007年-)
世界金融危機(せかいきんゆうきき、英: Global Financial Crisis)とは、2007年に顕在化したサブプライム住宅ローン危機を発端としたリーマン・ショックと、それに連鎖した一連の国際的な金融危機である。世界経済危機、世界金融崩壊、世界金融不況、世界同時不況、第二次世界恐慌[1]などとも呼ばれる。国際流動性の欠乏によって引き起こされ、シャドー・バンキング・システムの危機に発展し、これまで行われてきた金融規制に限界が存することを明らかにした[2][3]。短期金融市場から調達された資金を引き揚げられて、シャドーバンキングは脆弱性を露呈した[3][4]。
2008年9月29日にアメリカ合衆国下院が緊急経済安定化法案を一旦否決したのを機に、ニューヨーク証券取引市場のダウ平均株価は史上最大の777ドルの暴落を記録した[5]。これにより、金融危機は中欧・南欧・東欧を中心に各国へ連鎖的に広がった[6]。さらに10月6日から10日まではまさに「暗黒の一週間[7]」とも呼べる株価の暴落が発生した。
目次
1 概要
2 世界金融危機に至るまで
2.1 ジョブ・ロス・リカバリー
2.2 資源インフレの影響
2.3 信用拡張の後始末
3 危機の顕在化と金融危機
3.1 アメリカ金融機関再編
3.2 安定化法案の修正・可決
4 各国の状況
5 日本経済の状況
5.1 実感なき経済回復
5.2 量的金融緩和の中断
5.3 短命に終わる麻生内閣
6 その後の状況
7 略年表
7.1 2006年まで
7.2 2007年
7.3 2008年8月まで
7.4 2008年9月
7.5 2008年10月第1週
7.6 2008年10月第2週
7.7 2008年10月第3週
7.8 2008年10月第4・第5週
7.9 2008年11月・12月
7.10 2009年
7.11 2010年
8 脚注
9 参考文献
10 関連項目
11 外部リンク
概要
世界金融危機の中心は、銀行に増してシャドー・バンキング・システムであった。これこそが従来の金融危機と異なる特徴であった。シャドー・バンキング・システムとは、非銀行金融仲介機関によって行われるシステムのことである。非銀行金融仲介機関とは、たとえばマネー・マーケット・ファンド(MMF)、投資銀行等のレポ取引、特別目的事業体、資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)導管体、ヘッジファンド、証券会社、証券化商品発行体、そして個人向けのファイナンス・カンパニーである。短期資金を調達し、長期の資産に運用するという満期変換は、銀行の場合ロールオーバー・リスクや取り付けの危険をはらんでいる。シャドーバンクも同様であるが、市場性資金を運用するので、銀行よりも高いリスクを抱え、実際に取り付けが起きた[4]。
1985年から危機まで、シャドー・バンキング・システムの資産は機関投資家のそれが成長する軌跡を5年ほど遅れてなぞった。これは、機関投資家がシャドーバンク、特にMMFへ市場性資金を供給する関係にあるからである。世界金融危機は機関化の結果である。太字のシャドーバンクは資産額の危機手前10年間における増え方が特に顕著であったが、なかんずくMMFは銀行の一回りも、危機の火種となった不動産担保証券(MBS)を発行する、あるいは証券化した重要な投資家であった。満期変換の回数については、投資銀行や証券会社が行うレポ借入のそれが194回という世界記録を残し、MMFも41回というリスキーな数値であった。本稿の危機では、投資銀行がレポ市場からの取り付けに直面し大銀行に救済された。レバレッジの実態は危機拡大の要因として認めうるもので、アメリカの大銀行が倍率を横ばいさせていたのに対して、アメリカの三大投資銀行は2007年25倍を越えたが、欧州の大銀行は2008年35倍を超えた。ABCPの発行残高で、欧州はアメリカを上回っていた[4]。
冒頭の国際流動性とは、基軸通貨を証券化商品にまで拡張した概念である。2007年6月、ベアー・スターンズのヘッジファンドに対する債権者メリルリンチが担保のCDOをわずかしか売却できなかった。CDOには国際流動性を期待できなくなっていたのである。7月末、ドイツ工業銀行(IKB)がサブプライム関連証券化商品への投資で多額の損失を出したことが報じられた。この銀行は特別目的事業体を通じてCDO等に投資していた。8月9日にBNPパリバが3つのファンド凍結を発表した(パリバ・ショック)。サブプライム証券化商品の時価評価が困難となっていたからであった。資産担保証券も価格を下げて国際流動性を失った。これを担保とするABCPの借換発行までむずかしくなった。流動性を失ったABCPは、それを簿外勘定に追い出していた銀行が保有することになった。預金債務が膨張したので、銀行と連邦準備制度は事後的な信用創造に励んだ。そこでうまれた預金通貨は機関投資家によってMMFやレポ債権に転換された(M3伸び率の増加)。欧系銀行は危機発生に先立つ数年間、100以上の特別目的事業体のため直接または間接のスポンサーになっていた。これらの「導管体」は数千億ドル規模の資産担保証券をアメリカ市場で販売していた。その流動性が2007年8月に失われると、償還するために欧系銀行は在米支店からドル資金を調達した[8]。
世界金融危機に至るまで
ジョブ・ロス・リカバリー
2000年にITバブルが崩壊し、インターネット・情報技術関連企業の上場が多い米国NASDAQ市場は大暴落を見せ[9]、その影響から2001年4–6月期からは米国GDPが3四半期連続のマイナス成長となった。失業率も増加の一途をたどり、米財政赤字は拡大を続けた。政府は大規模所得減税を実施し、FRBは2000年末から利下げを繰り返していた。
その中で2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生した。被害に遭ったワールドトレードセンターには多くの金融機関が入居していたことから業務の遂行に支障を来す恐れがあると判断したニューヨーク証券取引市場は太平洋戦争以来の市場閉鎖を行い、4日間休場した。この事件は世界中の保険会社に打撃を与え、世界の機関投資家で危険を分担する契機となったが、ポートフォリオの見直しも必至となった。
既にFRBは年初から7回利下げを実施していたが、事件後の9月17日に緊急利下げをおこない、12月までにさらに4回の利下げを実施して、本格的金融緩和政策を鮮明とした。この結果、2001年FRBの政策金利は誘導目標を年初の6.5%から12月の1.75%まで引き下げを行い、米国金融史上で最も低い低金利政策となった[11][12]。
最終的には2004年5月まで1%という低金利政策が続いた[12]。この低金利政策は当初は正当視されていたものの、その後、不動産、住宅、債券などの資産バブルが明らかになると、ITバブル崩壊後の行き過ぎた低金利政策が資産バブルの温床となったとして批判された[13]。
この批判は根が深い。1980年代から産業構造が機関化したところに根本的な問題が存在したのである。家計部門の金融資産が急速に証券化し、機関投資家が膨大な株式を保有した。ファンドマネージャーが短期運用でキャピタルゲインをねらうので、企業経営者はレイオフで株価を引き上げようとした。そして2001年不況からの回復期にはジョブ・ロス・リカバリー(雇用喪失をともなう回復)が起こった[6]。
資源インフレの影響
BRICsを中心とした途上国の経済発展を背景に、エネルギー需要、食料需要などの資源需要の高まりにより、原油価格の上昇も加速された。産油国は莫大な利益を上げ、その利益は欧米の機関投資家へ流れた。ユーロ債市場が発行と消化の両方で拡大し、台湾などの新興経済発展諸国は外貨準備高を増やした。機関投資家の資金運用が円キャリー取引のような方法で米国に向かい、世界的な資金がアメリカ合衆国に集中するようになった。それが不動産市場で住宅バブルを構築する土壌となった。このとき、先の超低金利政策と、シャドー・バンキング・システムを通じた証券化を促進する規制緩和が相まって、サブプライムローンを中心とした信用拡張が行われた[6]。この複雑な簿外取引については証券化の記事を参照されたい。
またイラク戦争において、これまで非公式に輸出されていた世界第2位の埋蔵量を誇ったイラクの原油輸出が不可能となり、原油をはじめとした商品(先物)市場を通じた資源投機に拍車をかける材料となった。資源投機とユーロ債大量発行により、豪ドルやカナダドルに代表される資源国通貨も全面高となった。OPEC非加盟国であったロシアは原油価格の高騰で採算に難があった北極油田の採掘が可能となった。サウジアラビアを抜いて世界一の産油国となり、原油を輸出して債務国から債権国に転じた。ロシアは機関投資家として国際経済に台頭したが、ユーロ市場と無縁ではいられなかった。
エネルギー価格や資源価格の上昇を見通してバイオマスエタノール等の開発が促進された。家畜飼料が用いられたので穀物価格が上昇、食料危機の兆候が出始めた。各国はインフレ警戒感から金融引き締めに転じ、米国との金利格差が生じることになった。そしてサッダーム・フセイン大統領が2006年12月30日に処刑され、イラクの政情安定の見通しが拡がった。翌2007年から為替市場では米国からより金利の高い通貨国への資金移動が起こり始め、双子の赤字にふさわしく米ドルは下落に転じるようになった。
イラク戦争の費用はドル安のため高くついた。米ドル決済で行う原油取引において原油売却代金の実質収入が減少に転じ、その対策からOPEC非加盟国であるロシアや中南米諸国は原油の量的規制を強化して価格の一段の上昇を図った。新興経済発展諸国の経済成長による実需の増加や、折からの商品市況への投機熱も相まって、原油価格は2008年7月には147.27ドル/バレル(WTI先物)まで上昇した[14][15]。
信用拡張の後始末
米国では2004年6月30日のFOMCから政策金利の引き上げに転じた。2006年頃から住宅価格の伸びが停滞し始めた。2004年–2006年にかけて米国では住宅ブームが生じ、金利が安いあいだに低利の2段階変額ローンにより募集された不動産担保ローンが大量に組成された。これは最初の3年は低利固定型の返済で残金は4年目以降に変額型金利ローンとなる契約のものが中心で、住宅価格が上昇する間は短期で住宅を転売することにより有利に住宅を購入でき、あるいは転売益が期待できるというものであった。また値上がりによる担保価値の上昇分を担保にさらにクレジットローンを提供するサービスなども登場し、少なからぬ利用者が住宅価格の上昇の恩恵を受けた。この住宅ローンの個別債権は不動産担保証券(MBS)に証券化された。証券化は欧米の主要銀行が特別目的事業体などを利用して行った[6]。MBSは高利回りの金融商品として世界各国に販売された。選出基準の不透明な格付け機関がMBSの信用情報を提供した。貸し倒れに対する保証としてはクレジットデリバティブ(債務担保証券:CDOやクレジット・デフォルト・スワップ:CDS)などの金融商品が利用された。
この住宅ローンは借り換え期の4年目以降に急激に金利が上昇する設計となっているため当初からその危険性は指摘されていたが、住宅価格が上昇する局面ではその警鐘はかき消される格好となった。住宅価格のかげりが見え始めた2006年1月頃(ちょうどブーム3年目にかかる)から[16]、不動産担保証券の貸し倒れリスクが注目され始めた。なかんずくサブプライムローンは、債務者の一部が住宅価格の継続的な上昇を見込んだ返済計画を建てていたため、住宅価格低下の影響を受けて利払い延滞率が急激に上昇し始めた。債務者の利払い延滞が顕著となってくると、サブプライムローンの直接の貸し手である住宅金融専門会社に対する金融機関の融資が慎重になり、住宅金融専門会社の中には資金繰りが悪化して経営破綻する例が出始めた。さらにサブプライムローンは、貸し倒れの危険を分散させるために、分割・証券化され、投資信託のような金融商品に組み入れられていた。したがって、その金融商品そのものに対する信用リスクが連鎖的に広がることになった。
2007年は好況のピークであったが、パリバ・ショックが起きている(#2007年)。
危機の顕在化と金融危機
アメリカ金融機関再編
2008年3月にベア・スターンズの経営危機が明らかになると、金融危機が本格的に世界的に報道され始めた。連邦準備制度は最後の貸し手機能を拡充させて、国際流動性の危機に応急処置をしていたが、問題の根底にある不良債権の増大を止めることはできなかった。9月に入って、アメリカ政府支援機関(GSE)のフレディマックとファニーメイ2社が実質的破綻に陥り、9月15日にはリーマン・ブラザーズが連邦倒産法第11章適用を申請し経営破綻した。さらにバンク・オブ・アメリカによるメリルリンチの買収、AIGの国有化など、金融機関の再編が進んだ。
リーマンの抱えていた問題は次のようなものであった。
- MBSやCDOの不良債権化による自己資本の毀損
- 90万を超えるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)契約によるカウンター・パーティ・リスクの増大
- CP債務78億ドルとレポ債務1970億ドル(2008年3月末)
9月のショックで、リーマンの決済銀行であるJPモルガン・チェース、シティグループ、バンク・オブ・アメリカはレポ債権の追加担保を要求したが、応じることができず貸付が打ち切られ倒産した。一方、AIGは高格付けCDOのデフォルト率を低く見積もっていたので、CDSのネットでの売りポジションをヘッジしていなかった。AIGの売ったCDSは多くの投資銀行に保有されていたので、リーマンと異なり公的資金が投入された。リーマン・ショックはリーマン債を保有していたMMFを元本割れさせた。9月19日、MMF保険創設のため連邦政府が為替安定基金から最大で500億ドルを取り崩す方針が公表された。リーマン保有のCDSは、リーマンの清算価格が8.625%に決まったので、CDSの売り手に91.375%を保証させることになった。リーマン以外の清算ケースでもCDSは似たような状態であったので、CDSの売り手となっていた金融持株会社、投資銀行、保険会社、ヘッジファンドなどは、短期金融市場からの資金調達を金利の急騰に阻まれた。欧系銀行もドル建て流動性資金について同じ境遇であったので、新興国経済から資本を引揚げて金融危機を波及させた[17]。
安定化法案の修正・可決
これらの事態を受けて、最大7000億ドル(約70兆円)のアメリカ政府の公的資金を投入する緊急経済安定化法案の策定に着手。事前にアメリカ議会指導部と政府の合意が行われ、成立は確実とみられていたが、予想に反して9月29日にアメリカ下院で否決されると、この日のニューヨーク証券取引所のダウ平均株価は史上最大となる777ドルの下落を記録した[5]。これにより世界中でも急激な信用収縮が起こった。
その後緊急経済安定化法案は修正を加え、2008年10月3日金曜日アメリカ現地時間の午後1時に合衆国下院を通過し成立したが、それにもかかわらずこの日の米国株は後場急落し(欧州の金融機関の危機やカリフォルニア州の州財政の危機などが市場で蒸し返されたとされる)、翌週10月6日から10月10日の1週間は世界の株式市場で大きく株価が下落した。この週で日本の日経平均株価は、10月8日と10月10日には歴代上位[18]に入る下落率を記録したのを含め5日連続で2661円(24.33%)も下落した。ニューヨークやロンドンなどの海外の主要市場も大きく株価が下落し、ロシアやインドネシアなど新興国の株式市場では閉鎖に追い込まれるなど、深刻な事態となった。
これに対して10月8日には欧米の中央銀行が協調利下げに踏み切り、さらにアメリカのポールソン財務長官が記者会見で金融機関への資本注入を示唆したものの、株価の下落の流れが変わることはなかった。そして週の最終日の10日、ついに日本で日経先物の史上2回目のサーキットブレーカー発動、この日が特別清算指数算出日(SQ算出日)であったオプション10月限の全ての権利行使価格のプットがストライクしてイン・ザ・マネーとなり、米国市場ではボラティリティインデックス(VIX、通称恐怖指数)と呼ばれる、株価変動確率の激しさを表す指数が、1997年のアジア通貨危機の約38、2001年の同時多発テロの約45を遥かに上回る、75を一時超えるなど、市場の混乱は頂点に達した。
各国の状況
2008年8月の南オセチア紛争から、ロシアに対する海外の投資家離れも止まらず、ロシア株式市場の株価下落が続いた。中国の上海株式市場は北京オリンピックを前に下落に転じた。12月にはヨーロッパの一部で、金融危機を背景として失業者ならびに、就職できない学生によって暴動が発生した[19]。
基軸通貨としてのドルの信認は揺らぎ、アメリカに一極集中していた経済覇権にも少なからぬ影響を及ぼした。リーマン・ショックの直後には民間ドル資金の貸し出しが極端に不足し国際決済通貨が枯渇したため、2008年9月18日には日米欧の6中央銀行が通貨スワップ協定による大量のドル供給を開始した[20][21]。2008年11月にはタイとイランの両国政府はタイ産のコメとイラン産の原油を等価交換する契約を結ぶ事態となった[22]。
仏ソシエテジェネラルを早い例として、G7の核をなすメガバンクの自己資本利益率が低迷し、中でも米シティグループと英ロイヤルバンク・オブ・スコットランドが大ダメージを受けた[23]。
日本経済の状況
日本は1990年代後半にユーロ円債還流制限が全廃され、折からの金融危機で海外事業が縮小したこともあり、海外の機関投資家が日本市場へ攻勢をかけていた。日本経済の機関化は2006年ごろに完成した。日本の機関投資家は系列企業を買収するのに多忙であったため、ユーロ債を消化しながらMBSまで消化する余裕がなかった。したがって2008年の金融危機では比較的損失が少なかった。そこで野村ホールディングス(野村證券)は、破綻したリーマン・ブラザーズの2/3(韓国を除くアジア・欧州・中東部門)を買収した。また、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)からモルガン・スタンレーに9000億円が出資された。しかしその後の株価は急落し、経済規模が急速に縮小した。日本の金融機関も多額の経常損失と大規模な増資を余儀なくされたのである。サウジアラビアやドバイなどのオイルマネー、あるいは中国などの政府系金融機関もアメリカの金融機関などへ出資したが、その後の株価の急落や経常損失の発生により多額の含み損を発生させた。アイスランドやバルト三国のように国家規模での財政破綻を懸念される国も発生した。
実感なき経済回復
1990年代以降、国民の間で財政再建の機運やインフレを嫌う傾向が高まったことにより、政府は公共事業などの適切な財政政策や市場への資金供給などの適切な金融政策が行えず、消費の低迷や国内への投資を喚起できなかった。しかし2003年、小泉政権において大規模な為替介入が行われたことにより円相場の実質実効為替レートは低下傾向を示した[24]。結果、輸出系企業は国内に積極的な投資を行った[25]。この間、輸出系企業は米国およびBRICS、NEXT11などの新興国、また、中東・オーストラリアをはじめとした資源国など、特に経済成長が著しい国家を主要販売先として、外需依存型の経営を行なっていた。
しかし、海外で好調であっても、国内ではインフレが起きなかったため、2000年代の雇用報酬は伸び悩んだ。また、失業率や有効求人倍率は改善したが、退職給与引当金の損金繰り入れが廃止されたことや、非正規雇用の規制緩和などにより、企業が正社員よりも低賃金・低待遇ですむ非正規雇用者の採用を進めたこともあり、個人消費は伸び悩んだ。そして企業がバブル崩壊後の借金経営に対する批判から、大規模な借金によるレバレッジ投資を控え、儲けた利益の範囲内で投資を行ったため、雇用報酬も伸び悩んだ。これらの現象は「実感なき経済回復」と総称された。
量的金融緩和の中断
2006年以後、日銀はデフレを脱したと判断して、不況対策としての量的金融緩和政策を2006年3月に解除した。ところが、CPIやコアCPIを見ると、インフレ傾向に見えていた一方で、生鮮食品と石油関連価格を除いた実体的な物価を表すコアコアCPIを見ると、日本はまだデフレ傾向にあった。翌年の2007年から景気の転換局面に入ってしまった[26]。これ以後、企業倒産件数は増加傾向にあり、さらに建築基準法改正の悪影響(建基法不況)や原油・原材料価格の高騰によるコスト増などで、景気後半でようやく盛り上がった建設・不動産・運輸業は低迷していた。日銀は「金融緩和余地が少ない」という組織の論理で量的金融緩和を行わなかったためコアコアCPIは0%を下回り、その後、約-1.5%まで下がった[27]。さらに金融商品に変わる投資先として通貨、特に日本円が注目されて急激に円買いが進んだ結果、予想外の急速な円高が生じた。円相場は一時は1ドル=87円にまで達し、その後も90円台を推移している。その結果、輸出企業は外需低迷ばかりか莫大な為替差損をも抱え込むことになり、2008年度の決算を大幅な黒字から赤字へと下方修正、そして赤字から大幅な赤字へと再度下方修正せざるを得なくなった。
量的金融緩和の中断は厳しい結果をもたらしたのであるが、中断は合理的に解釈しうる。日本の機関投資家が世界で危機の経済化したときに傷が浅かったのは、日本国債や日本株を買っていた分、海外の証券を買えなかったからであった。量的金融緩和というのは実際問題として買い入れ証券をあまり選べない。国家財政から独立した経営体としては、買い入れに限界が存在した。
短命に終わる麻生内閣
日本の2008年10–12月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比3.3%(年率換算で12.7%)のマイナスとなり、第一次石油危機に次ぐ約35年ぶりの、アメリカを超える下落幅を記録した。外需依存が裏目に出た。2009年1–3月期は前期比4.0%(年率換算で15.2%)減と第一次石油危機を超える下落幅となった。企業は2009年問題もあって、派遣社員や期間工、そして正社員の人員削減を進めざるをえない状況となり、2009年3月末までに失われた非正規労働者の雇用は19万人に達した[28]。日本共産党の機関紙であるしんぶん赤旗は、この人員削減が個人消費を落ち込ませ、内需を悪化させることで更なる人員削減を招くという悪循環が生じると指摘した[29]。
しかし急激な円高は高騰していた原料・燃料の価格を下げた。麻生内閣による自家用車高速道路優遇措置も加わり、日本国内における消費の低迷にはある程度の歯止めがかかった。もとより収益を国内販売に頼っていたスズキ、ダイハツ工業(トヨタとの連結前)、本田技研工業等は黒字に踏みとどまった。また輸入ブランド品の末端販売価格の引き下げが可能となりこれらを取り扱う流通業者では増収となった。このため一時期7000円台にまで落ち込んだ日経平均株価は2009年6月の段階で10000円台にまで上げており、先進国の中では素早い回復であった。失業率も2ポイント増程度で歯止めがかかりつつあった。
しかし、現実の失業率は5%台という戦後最高の水準にあり、そして2009年7月の失業率は戦後最悪の5.7%、完全失業者数は359万人に達した[30]。結局、景気回復は「歯止めがかかりつつある」「きざしが見える」など単なるレトリックの域を出ていない。それに対し、企業内で不要とされる「過剰雇用者」、つまり失業者予備軍がさらに607万人(約7%)存在するという推計もあり、雇用環境の悪化が消費減退を招き、さらに企業に雇用調整を促すという悪循環さえも予想され[31]予断を許さない情勢が続き、さらに強力な財政政策による内需拡大、大規模な金融緩和による景気刺激策が求められた[32]。
その後の状況
2008年から数年にわたり、カナダ、オーストラリア、インド、レバノン、南アフリカ共和国では、貴金属と化石燃料をふくむ鉱産資源の輸出量が急増しつづけた。イスラエルのダイヤモンド輸出量も同様である。
アメリカの全米経済研究所は2010年9月20日に、2007年12月からのアメリカの景気後退は2009年6月に終了していたとコメントした[33]。これはあくまでもアメリカ国内の景気循環について述べたものであり、世界各国での世界金融危機のショックによる余波(例えばドバイ・ショック、2010年欧州ソブリン危機)がもたらしているさまざまな影響について述べているわけではない。世界金融危機以降の回復の過程あるいは経済の推移は、各国個別の事情が影響しており展開はまちまちな状況である。
世界金融危機による世界同時不況は日本を含め、2013年現在では終わったものと捉えられているが、この不況によって残された爪痕は極めて深い。特にヨーロッパ諸国では高い失業率(特に若年者)や国家レベルでの財政危機などが深刻化しており、経済的な落ち込みから2014年現在も立ち直れていない。
日本では東日本大震災による被害も甚大であり、経済のみならず政治的・社会的にも深刻なダメージを受けた。2011年に韓国とギリシャの原油輸出量が急増している。もっとも2015年前後からはアベノミクスにより景気回復はなされているという報道も多いが、その効果を疑問視する意見もあり、ショックから完全に立ち直ったとは言えない状況である。
また、世界的に景気回復の実感が弱く、国によってばらつきが見られる中、再び世界経済の先行きの不透明さが増しているとも言われ、今後の状況は予断を許さない[34]。日本でも、2014年4月の消費税増税が、緩やかな回復状態にあった景気の腰を折り、再び後退局面に追いやったという見方がある[35]。
2014年11月4日、IMFの内部監察を行う独立評価機関(IEO)は報告書で、IMFが金融危機後に主要先進国に緊縮策・予算削減を求めたことは誤りだったとの判断を示した[36]。
危機を反省した規制として2010年にドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法が制定され、シャドー・バンキング・システムを連邦準備制度に監督規制させることとなった。米財務省の金融監督庁(OFR)が2013年にレポートを提出、資産運用会社や運用ファンドも金融システム安定化の脅威になりうると結論した。そこでこれらも「システム上重要な金融会社(SIFI)」に指定することが検討されたが、フィデリティ・インベストメンツやブラックロックが強く反発、証券取引委員会までもが警戒感を示した。そしてドッド・フランク法が改正されるまでファンドマネージャーレベルでの規制はなされず、商品や業務のリスクに注目した監視だけが行われた[37]。
略年表
(日付は、現地時間と日本時間が混じっています。また事件と報道がずれている場合があります。そのため事件の順番に矛盾があるので、利用の際はお気を付け下さい。=例えば、ある発表を受けて株価が暴落した場合でも、発表の方が1日後になっているところがありえます)
2006年まで
- 1996年12月00日 - FRBのグリーンスパン議長が米国株の上昇を「根拠なき熱狂」("irrational exuberance")と表現。しかしその後FRB内部での懸念にもかかわらず金融緩和を推し進め、住宅バブルを発生させた主要人物だとの証言がある。
- 2001年09月11日 - アメリカ同時多発テロ事件発生。NYSEなどの株式が大幅に下落する。
- 12月2日 - エンロン倒産
- 2002年07月21日 - ワールドコム倒産
- 2003年04月28日 - 日経平均株価が、当時のバブル後最安値7607.88円を記録。
- 2004年00月00日 - アメリカの金融緩和が終わり、公定歩合を上昇させ始める。
2007年
02月27日 - 上海株式市場で上海総合指数が前日比-8.84%の大暴落を起こす(上海ショック)。- アメリカで住宅価格の下落が始まる。
06月08日 - G8首脳会議
06月20日 - 日本で改正建築基準法施行。元一級建築士のA氏による構造計算書偽造に端を発した構造計算書偽造問題の再発防止のために改正されたが、行き過ぎた規制のために住宅建設などが停滞。建基法不況を招いた。
07月09日 - 日経平均1万8261.98円(ITバブル後最高値)
08月09日 - 仏BNPパリバ傘下のミューチュアルファンドが資産凍結(パリバ・ショック)[38]。連鎖的な金融不安を恐れた欧州中央銀行は、948億ユーロ(当時の日本円で約15兆円)の資金供給を行う[39][40]。このタイミングでサブプライムローン問題がクローズアップされる[41]。
09月14日 - 英中央銀行、ノーザン・ロックへ救済融資発表[42]
- 10月00日 - メリルリンチのオニールCEOが引責辞任。
- 10月00日 - 日本の経済では、暫定的にこの月が景気(第14循環)の山とされている[43]。
- 10月09日 - NYダウ史上最高値1万4164.53ドル。
- 10月16日 - 上海総合指数が6,092.06のピーク値を付ける。この後、2008年11月4日の1,706.70まで下がり続ける。
- 12月00日 - 日経平均2007年年末終値1万5307円
- アメリカ経済は、景気循環上ではこの月に景気の山を迎えている。
2008年8月まで
03月16日 - JPモルガン・チェースが、経営危機に陥っていたベアー・スターンズの買収を発表[44]。
03月00日 - 日米欧、ドル防衛の協調介入について合意(密約)との報道(米政府は介入はないと公的言明)[45]。
05月30日 - JPモルガン・チェースがベアー・スターンズを救済合併。
07月00日 - インディマック銀行破綻。ブリッジバンク設立。
07月00日 - 北海道洞爺湖サミット開催。環境対策が中心議題(経済危機については大きな議題としていない)。
2008年9月
09月07日 - 米政府系金融機関(GSE)のフレディマックとファニーメイがアメリカ政府の管理下になる(MBS残高計5兆ドル)。
09月10日 - リーマン・ブラザーズの株価が、韓国産業銀行との出資交渉が決裂したことを契機に同月9日45%まで下落する[46]。
09月12日 - 米サーベラス傘下で再建を目指すあおぞら銀行が、GM傘下の金融会社GMACへの投資損失178億円を処理し、中間決算で40億円の赤字。
09月15日 - リーマン・ブラザーズが連邦倒産法第11章適用を申請し経営破綻。負債総額6130億ドル(約65兆円)(リーマン・ショック)[47][48]。
09月15日 - バンク・オブ・アメリカがメリルリンチを救済合併[49]。
09月16日 - リーマン・ブラザーズの日本法人、リーマン・ブラザーズ証券が民事再生法適用を申請[50]。
09月16日 - アメリカ政府とFRBが全米最大の保険会社AIGに850億ドルの融資を決定。アメリカ政府がAIGの株式の79.9%を取得し事実上の国有化[51]。
09月18日 - 英銀行・保険大手の ロイズTSBが、同じく英国大手のHBOSを122億ポンド(約2兆4000億円)で買収することを発表。事実上の救済合併。
09月18日 - 主要中央6銀行は1800億ドルの直接供給を発表。
09月19日 - ムーディーズが大手モノライン2社(MBIAとアムバック)を格下げ方向で見直し中と発表。
09月21日 - ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが銀行持株会社に移行を発表。
09月22日 - 三菱UFJフィナンシャル・グループがモルガン・スタンレーへ出資することを発表[42]。
09月25日 - ワシントン・ミューチュアルが破綻。JPモルガン・チェースが事業買収。
09月29日 - アメリカ合衆国下院が緊急経済安定化法案を否決[5]。「世界恐慌の再来」を世界が危惧する事態に(議会指導部や大統領は採決は通ると楽観視していたが、下院議員たちはアメリカの伝統的な「自己責任」の価値観に基づき反対票を投じた)。
09月29日 - 法案否決を受けてNYダウが史上最大の777ドル安となる。日経平均も暴落[5]。
09月29日 - ドイツ不動産金融大手のドイツ・ヒポ・リアルエステート(ドイツHRE)の破綻危機が表面化(抵当証券約15兆円発行)一旦救済策が発表された。
09月29日 - モルガン・スタンレーに三菱UFJフィナンシャル・グループが出資する計画を発表。優先株60億ドル、普通株30億ドル(22.25ドルで)。
09月29日 - 深夜に白川方明日本銀行総裁が「ドルの短期流動性は枯渇した」と発言。
09月30日 - ベルギーの金融大手デクシアをベネルクス3国で救済。
2008年10月第1週
- 10月01日 - 緊急経済安定化法がアメリカ合衆国上院で可決(下院で否決された案とは多少異なる。下院での採決に向けた援護射撃であり、オバマ、マケイン両大統領候補(上院議員)も賛成した)[52]。
- 10月03日 - 緊急経済安定化法がアメリカ合衆国下院でも可決し成立。米国政府は7000億ドルの公的資金を投入して不良資産を買い取ることを決定[53]。
- 10月03日 - ウェルズ・ファーゴがワコビアの株式約151億ドル(約1兆6000億円)の取得を模索。シティグループとの争奪戦になる(10日決着、シティが断念)。
- 10月03日 - カリフォルニア州財政危機表面化。アーノルド・シュワルツェネッガー知事が連邦政府に資金援助を要請。
- 10月03日 - ベルギー最大の金融グループのフォルティス(Fortis、総資産120兆円)をベネルクス3国で救済。公的資金300億ユーロ投入(フォルティスはABNアムロの買収のため資金不足)。
- 10月03日 - 米労働省雇用統計で前月比15.9万人減、5年半ぶり。
- 10月04日 - EU4カ国(英独仏伊)首脳会議開催。欧州全体を対象とする銀行監督機関の創設などを表明。フランス構想の3000億ユーロの銀行救済基金創設はドイツなどの反対で提案すらできず、欧州の危機意識不足と協調が取れないことに市場の失望を生む(メルケル首相はアイルランドの公的資金投入を批判)[54]。
- 10月05日 - ドイツ政府とドイツ連邦銀行が、ドイツHREに500億ユーロ(約7兆2000億円)の公的資金投入を決定。
- 10月05日 - ドイツ、デンマーク政府、個人銀行預金全額保護を発表。
- 10月05日 - イタリア最大手銀行のウニクレディトが66億ユーロ(9400億円)の資本増強計画を発表。
- 10月05日 - 日銀、1兆円を即日供給。9月16日から14営業日連続供給で累計26.4兆円を供給した。
2008年10月第2週
- 10月06日 - FRBが9000億ドルに資金供給を倍増。
- 10月06日 - フレディマック、ファニーメイのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)精算価格が決定。フレディマックは94%、ファニーメイは91.51%に決定。劣後債はそれぞれ98%、99.9%。市場推計は5000億ドルのため数百億ドルが損失となった。大手金融機関やCDOの損失が心配される。
- 10月07日 - ロシアRTS市場が19パーセント下落。一時取引停止。
- 10月07日 - アイスランド・クローナが対ユーロで30%暴落。アイスランド政府が同国の全金融機関を事実上国有化する法案を可決。
- 10月07日 - 6日のNYSEでダウが1万ドル割れ(終値9955.50ドル)。円ドル相場一時100円台(中央値102円)。原油一時90ドル割れ。
- 10月07日 - 7日の日経平均が4日連続続落、合計1200円。一時1万円割れ。(終値1万0155.90円)。(PERが約13倍、解散価値を示すPBRが約1.1倍、年間配当利回りが2%と割安感にもかかわらず、底が見えない)
- 10月07日 - オペルが生産の一時停止を発表。BMW、ダイムラーも追随した。
- 10月07日 - 英大手銀行ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)の株価が30%下落。ポンドも下落。
- 10月07日 - FRBがこれから社債を買い取ることを発表。
- 10月07日 - イングランドのサッカー・プレミアリーグは合計30億ポンド(5300億円)の巨額負債があると発表。特にウェストハムはオーナーがアイスランドの銀行と関係があるため心配されている。
- 10月07日 - 国際通貨基金(IMF)が国際金融安定性報告書(GFSR)を発表。欧米主要銀行の資本増強額を6750億ドル、米国の損失額を1.4兆ドルとした。まだ6400億ドル残った計算になる[55][56]。
- 10月08日 - 7日のNYダウはさらに暴落(終値9447.11ドル、-508.39ドル)。
- 10月08日 - BNPパリバが、フォルティスのベルギーとルクセンブルクの銀行業務と、ベルギーの保険部門の経営権を総額145億ユーロ(約2兆円)で取得を決定。
- 10月08日 - 日経平均が史上ワースト3位の暴落。前日比952.58円安(9203.32、-9.38%)を記録。為替は1ドル99円台に。
- 10月08日 - ロシアRTS指数は8.4%下落。
- 10月08日 - イギリス政府が国内銀行向けに500億ポンド(872億ドル)の公的資金注入計画を発表。大手8行に250億、英国内の希望する外銀に250億を注入する。また2000億ポンドの流動性を銀行に供給することを発表(いくつかの銀行は受け入れない方針)。
- 10月08日 - ポールソン財務長官が記者会見で資本注入を示唆(法律上微妙な上に、議会の反対は必至-良いニュースではあるが、株は続落した)。
- 10月08日 - アイスランドが銀行国有化。必要な援助をEUから断られ、ロシアからの予定(「冷戦時代に西側の生命線と言われたGIUKギャップにほころび」、と言う意味で軍事上大きな意味合いを持つ。その後11日に日本の麻生太郎首相がIMFの融資を提案)。
- 10月08日 - FRBがAIGに追加融資枠設定、総計1228億ドル(「当初設定では不足」ということで市場の憂慮を生む)。
- 10月08日 - 欧米6中銀が0.5%協調利下げ(米FFレート1.5%、ECB3.75%)。
- 10月08日 - LIBORドル翌日物が5.38%、CP1ヶ月もの5.5%。LIBORは表面金利で、資金の出し手がほとんどいない。
- 10月09日 - ソウル市場でウォン下落、1ドル=1400ウォン台へ。1月950ウォン台。昨年からは5割減。
- 10月09日 - スイス3大銀行の一つクレディスイス第3四半期赤字と有力紙報道。
- 10月09日 - ECBが過去最大規模の10兆円の資金緊急供給。
- 10月09日 - ニューシティ・レジデンス投資法人が東証上場REITとして初の破綻。負債1123億円。個人投資家8600人へ影響。
- 10月09日 - 8日のNYダウが再び暴落、終値8579.19ドル(-678.91ドル、-7.3%)。GMの欧州での販売不振よりS&P格下げの可能性から経営不安が広がり、実体経済への影響を懸念した。
- 10月10日 - 積極投資で知られていた中堅保険会社大和生命保険が経営破綻[57]。債務超過114億円、負債2695億円。
- 10月10日 - この日算出される日経平均オプション10月限のSQ値が、7992.60となった。通常、オプションではATM(アット・ザ・マネー)を中心として上下それぞれ最低8種類の権利行使価格が存在するように権利行使価格の見直しが日々行われるが、規定により、SQ週はこの見直しが行われない。よって、10月限の権利行使価格は9000円未満が存在しないこととなった(前週10月3日のITM 1万1000円を中心とし、最低値は9000円)。一方、日経平均はこの週も下落を続けた。最終的に先述のようなSQ値となり、10月限のプットオプションはすべてがITM(イン・ザ・マネー)となる異常事態となった(プットオプションの売り手が、損失を回避するため、この週、日経平均先物のヘッジ売りを大量に行ったことが、この週の日経平均の下落に拍車をかけたと見る市場関係者もいる)。
- 10月10日 - 日経平均が暴落。終値は前日比881.06円安(-9.62%、過去3番目)の8276円(5年5ヶ月ぶり)。欧米ヘッジファンドの換金売りと言われるが、日本国内からのドル売りも考えられる。日経平均先物にはサーキットブレーカーが発動。アジア株も大幅下落。円高一時97円。
- 10月10日 - 東京株式市場時価総額268兆円、1年前530兆円のほぼ半額。
- 10月10日 - ロンドン、パリ、フランクフルト、ロシアの株式約10%下落。
- 10月10日 - 日銀が4.5兆円を市場に供給。
- 10月10日 - ブッシュ米大統領が声明を発表。新味なしで売り材料に。
- 10月10日 - 前日12ドル台のモルガン・スタンレー、MUFGの出資取りやめ予想で7ドル台で推移。ジャンク級のGM、フォードをさらに格下げ予定。フォードはマツダ株を売却報道。GM、クライスラー合併交渉中の報道。
- 10月10日 - NYダウは小康状態。終値8451.19ドル(-128.00ドル)(ザラ場最安値は7882.51ドル)。原油相場77.09ドルへ下落。金859ドルに下落。
- 10月10日 - リーマン・ブラザーズCDS精算価格が元本の8.625%に決定。推定想定元本は4000億ドル。ほぼ全額が失われるため、影響が大きい。日本国内への波及も懸念されている[58][59](バーナンキFRB議長が7日の講演で発言した「(証券会社への公的資金投入の枠組みがなかったので)金額が大きすぎて救済のしようがなかった」[60]の根拠を裏付けるものとなる。当時財務省などが緊急査定しており、金額はほぼ確定していた)。後の市場予測は、相殺されるため数千億円規模の損失。
- 10月11日 - 先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)をワシントンで開催。5項目の行動計画を発表[61]。続いてロシア中国を含むG20を開催。
- 10月11日 - ポールソン財務長官が公的資金投入を明言。
- 10月11日 - サンデータイムズが英公的資金申請額を報道。RBS(総資産300兆円)が最大150億ポンド(時価総額120億を上回る)を申請。英住宅金融最大手のHBOSが100億、HBOSを買収するロイズTSBが70億、バークレイズが30億。総計350億(約6兆円)前後になる[62]。
- 10月12日 - IMFと世界銀行が「米国発の金融危機は最貧国の人々に深刻で取り返しの付かない損害を与えるリスクがある」との共同声明を発表[63][64]。
- 10月12日 - MUFGとモルガン・スタンレーが出資条件巡り再交渉中[65]と報道。
2008年10月第3週
- 10月13日 - 日米欧5中銀はドル資金を無制限供給すると発表(担保が必要)[66]。
- 10月13日 - G7週明けの市場が再開。各市場8–11%前後上昇(台北を除く)。
- 10月13日 - MUFGがモルガン・スタンレーに90億ドル出資。全額優先株、配当10%、一株25.25ドル、出資比率20%[67][68]。
- 10月13日 - 麻生太郎首相が中川昭一財務・金融担当相に地銀への公的資金注入検討を指示。3月失効の金融強化法を基礎に。同じく麻生首相の指示で年内に限り自社株買いを緩和[69]。
- 10月13日 - 独仏が合計8600億ユーロ(約100兆円)を金融支援に投入すると発表[70]。
- 10月13日 - NYダウ始値8462.42ドル、終値9387.61ドル(+936.42は同日時点で過去最大、+11.08%)。
- 10月14日 - 日経平均が過去最大の上昇9447.57円(+1171.14円、+14.15%)、TOPIX956.30(+115.44)(13日は休日)[71]。
- 10月15日 - 米国財政赤字が過去最大の4550億ドル[72]。
- 10月15日 - 米小売り売り上げ高が1.2%減(市場予測0.6%の2倍) 金融危機で消費抑制[73]。
- 10月16日 - FRBのバーナンキ議長が「金融市場が安定したとしても景気回復には時間がかかる」と発言。株価急落の原因の一つとされる。
- 10月16日 - 景気後退懸念から急落。NYダウ 8577.91ドル(-733.08ドル、-7.87%)、英FTSE 4079.59(-314.62、-7.16%)、他独DAX -6.5%、西IBEX35 -5.1%、仏CAC40 -6.8%。
- 10月16日 - 日経平均暴落、8458.45円(-1089.02円、-11.41%。ブラックマンデー以来2番目)。
- 10月16日 - UBS経営危機に対し、スイス政府が60億スイスフラン(5220億円)投入、6兆円の基金設立。ベルギー、アイスランドのように小国にありながら規模の大きい銀行に市場の疑惑の目。クレディ・スイスはカタールなどから9000億円調達[74]。
- 10月16日 - 原油価格WTIが70ドル割れ、69.85ドル。2007年8月23日以来、約1年2カ月ぶりの安値[75]。
- 10月16日 - NYダウ乱高下、終値8979.26ドル(+401.35ドル、+4.68%)(高値 9013.27、安値 8197.67)。
- 10月16日 - FRB発表の鉱工業生産指数は前月比2.8%低下し、1974年12月以来ぼ34年ぶりの大きな下落[76]。シカゴとサンフランシスコ連銀総裁が景気後退を示唆。
- 10月17日 - ロイター集計による、世界中の公的資金注入状況。米国は2500億ドル(約25兆円)、英国は500億ポンド(約9兆円)、ドイツは800億ユーロ(約11.2兆円)、フランスは400億ユーロ(約5.6兆円)。米国と欧州で総額6000億ドル(60兆円)を超える[56]。
- 10月17日 - 米ミシガン大消費者信頼感指数が前月の70.7から大幅悪化し、57.5に。また景気現況指数も大幅悪化し、前月の75.0から58.9に低下し過去最低となる[77]。
- 10月17日 - 商務省発表の9月の住宅着工・許可統計着工件数が前月比6.3%減少し、1991年以来の水準、住宅着工許可件数も前月比8.3%減少し、1981年以来の低水準となった[78]。
- 10月18日 - 米大手金融機関が金融安定化法の公的資金資本注入を受け入れる。シティグループとJPモルガン・チェースが250億ドル、モルガン・スタンレーが100億ドル、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンが30億ドル[79]。
2008年10月第4・第5週
- 10月20日 - FRBのバーナンキ議長が下院予算委員会で証言。追加的財政出動を支持すると表明[80]。
- 10月23日 - FRBのグリーンスパン前議長が下院政府改革委員会で証言。議長時代の政策の誤りを認める[81]。
- 10月23日 - ワコビアのCDS精算価格決定予定。
- 10月27日 - 日経平均の終値が7162.90円となり、バブル崩壊後最安値を更新[82]。
- 10月28–29日 - FRBが連邦公開市場委員会(FOMC)を開催[83]。
2008年11月・12月
- 11月04日 - アメリカ大統領選挙で民主党のバラク・オバマが勝利。
- 11月04日 - 上海総合指数が1,706.70のその後の底値となる値をつける。
- 11月09日 - 中国、4兆元の景気対策を発表[42]。
- 11月14–15日 - 第1回20か国・地域首脳会合(金融サミット)開催。
- 11月18–19日 - GM、フォード・モーター、クライスラーの各首脳が公的支援を求めてアメリカ上院、下院の公聴会に出席したが、自家用ジェット機で来たことに対して議員から非難が集中[84][85]。
- 11月23日 - FRBがシティグループに対し追加で200億ドルの資本注入、および不良資産3600億ドルの政府保証を発表。
- 11月25日 - FRBが最大8000億ドルの追加金融対策を発表。
- 12月11日 - 自動車大手3社に対し総額140億ドルの政府融資を行う救済法案がアメリカ上院で交渉が決裂、事実上廃案となる[86][87]。その後、緊急経済安定化法による公的資金の一部を活用しつなぎ融資を行うことを決定。
- 12月11日 - バーナード・L・マドフ(ナスダック元会長)、巨額投資詐欺の容疑で逮捕。被害総額は500億ドル超と見られる。
2009年
ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは2009年1月に、生産、金融、消費の世界的な縮小状況について「これは実に第二次世界恐慌(Second Great Depression)の始まりのように思われる」と評した[88]。また、国際通貨基金(IMF)のドミニク・ストロス=カーン専務理事(当時)は2009年2月に非公式のコメントとして「(日本を含む先進各国は)既に恐慌の状態にある」と述べた[89]。
01月28日-2月1日 - ダボス会議
02月13-14日 - G7財務相・中央銀行総裁会議(ローマ)
03月00日 - 日本の経済では、暫定的にこの月が景気(第14循環)の谷とされている[90]。
03月13-14日 - G20財務相・中央銀行総裁会議(英ホーシャム)
03月23日 - 中国人民銀行総裁の周小川が国際通貨改革で論文を発表[42]。
04月02日 - 第2回20か国・地域首脳会合開催。2010年の世界経済の成長率を2%に回復させることなどを宣言[91]。
04月10日 - 日本政府が過去最大の56兆8000億円規模の追加経済対策(経済危機対策)を決定[92]。
04月24日 - G7,G20財務相・中央銀行総裁会議(ロンドン)
04月30日 - クライスラーが連邦倒産法第11章適用を申請。
05月07日 - 米財務省とFRBがアメリカ大手金融機関19社の資産査定(ストレステスト)を実施。その結果、バンク・オブ・アメリカやシティグループなど10社で総額746億ドルの資本不足になる恐れがあると公表[93]。
06月01日 - GMが連邦倒産法第11章の適用を申請し、経営破綻した。
06月10日 - クライスラーが連邦倒産法に基づく再建手続きを完了。
06月16日 - BRICs首脳会議(エカテリンブルク)
07月8-10日 - G8首脳会議(イタリア・ラクイラ)
07月10日 - GMが連邦倒産法に基づく再建手続きを完了。
08月30日 - 衆議院議員総選挙で民主党が勝利、鳩山政権誕生へ
09月4-5日 - G20財務相・中央銀行総裁会議(ロンドン)
09月24-25日 - 第3回20か国・地域首脳会合開催。- 10月03日 - G7財務相・中央銀行総裁会議(イスタンブール)
- 11月6-7日 - G20財務相・中央銀行総裁会議(英セントアンドルーズ)
- 11月17日 - 米中首脳会談(北京)
- 11月25日 - アラブ首長国連邦、ドバイの政府系金融企業の債務支払い繰延べの要請が明らかとなり金融不安が生じた(ドバイ・ショック)。ドルとユーロが下落し27日には1ドルが一時84円台に14年ぶりに突入、また金の価格が高騰し1オンス1194.50ドルを記録した。
2010年
01月27-30日 - ダボス会議
02月5-6日 - G7財務相・中央銀行総裁会議(イカルイト)。共同声明発表を取りやめ[42]。
04月15日 - BRICs首脳会議(ブラジリア)
04月22-23日 - G7,G20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン)
05月02日 - EU・IMFが財政危機のギリシャに1100億ユーロ金融支援で合意[42]。
06月4-5日 - G20財務相・中央銀行総裁会議(韓国・釜山)
06月25-26日 - G8首脳会議(カナダ・ムコスカ)
06月26-27日 - 第4回20か国・地域首脳会合
07月21日 - ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法成立。
09月27日 - マンテガ・ブラジル財務相の「通貨戦争」発言[42]
- 10月08日 - G7財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン)
- 10月22-23日 - G20財務相・中央銀行総裁会議(韓国・慶州)
- 11月11-12日 - 第5回20か国・地域首脳会合(ソウル)
- 11月15日 - EU統計局はギリシャの対GDP赤字比率を2009年は15.4%(前回13.6%)、2008年は9.4%(同7.7%)と拡大修正した。目標は8.1%なので歳出削減追加を求められている。2009年度のユーロ圏16カ国の赤字は6.3%(前年2%)、EU全体では6.8%(前年2.3%)と拡大している[94]。
- 11月22日 - アイルランドは、総額7500億€(約85兆円)のEUとIMF「ユーロ防衛基金」金融支援800億–900億€を要請した[95]。原因はアイルランドが全金融機関を救済したため、財政赤字がGDPの30%以上となり、公債がGDPの176%になったため[96]。
- 11月22日 - フィナンシャル・タイムズはバークレーズ・キャピタルの発表として、バーゼル3の適用(自己資本比率コアTier1規制7%+余裕1%)で米国の上位銀行が資本不足となり、リスク資産の売却を迫られるだろうとした。バーゼル2(欧州は適用済み)の米国への適用の影響は予測が付かないとした[97]。
脚注
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^ Łukasz Mamica, Pasquale Tridico, Economic Policy and the Financial Crisis, Routledge, 2014, p.6.
- ^ abAnastasia Nesvetailova, 'Liquidity' in Light of the Shadow Banking System: Lessons from the Two Crises, in Economic Policy and the Financial Crisis
- ^ abc北原徹 『シャドーバンキングと満期変換』〈立教経済学研究〉、2012年1月20日。
- ^ abcd“NYダウ最大の下げ、終値777ドル安 下院が金融安定化法案否決”. 日本経済新聞. (2008年9月30日). オリジナルの2008年10月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20081003003842/http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080930AT2M3000E30092008.html 2008年9月30日閲覧。
- ^ abcd柴田2016年 序章
^ この呼称は神奈川新聞2008年10月12日付社説[1]で用いられた。
^ 柴田徳太郎 編著 『世界経済危機とその後の世界』 日本経済評論社 2016年 42-48頁
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^ WTI原油先物チャート[2]
^ S&Pケースシラー住宅価格指数[3]
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関連項目
- アメリカ住宅バブル
- 貯蓄貸付組合
貯蓄貸付組合危機 - 1980年代の貯蓄貸付組合を舞台とした金融危機。単に、S&L危機とも(英語)
韓国通貨危機(2008年以後)- 就職氷河期
- 派遣切り
- バブル景気
- 不良債権
- ノンリコースローン
- 米国債ショック
- 財政の崖
- 8割経済
- UKフィナンシャル・インベストメンツ
- 2007年-2008年の世界食料価格危機
- ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法
- 映画
- マージン・コール
- ウォールストリート・ダウン
- キャピタリズム〜マネーは踊る〜
- インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実
外部リンク
アメリカ発金融危機 - NHKアーカイブス
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