愛国心
































「愛国的であれ」1917年、
第一次世界大戦中のアメリカ合衆国食品管理局によるポスター。


愛国心(あいこくしん)または愛国主義(あいこくしゅぎ、パトリオティズム、英: patriotism)は、自分の国家に対し、愛着や忠誠を抱く心情[1]




目次






  • 1 用語


  • 2 概説


  • 3 歴史


  • 4 議論


  • 5 愛国心教育


    • 5.1 日本


    • 5.2 中国




  • 6 脚注


  • 7 参考文献


  • 8 関連項目


  • 9 外部リンク





用語


英語の「愛国者」(patriot)との用語は、エリザベス朝で初めて使用され、語源は6世紀の後期ラテン語で「国の人」を意味する patriota である[2]。また「愛国主義」(patriotism)の用語が派生したのは、18世紀初頭である[3]


「愛国」という語句は古代中国より使われており、日本では『日本書紀』の中に見る事が出来るが、ここでいう愛国とは「故郷を懐かしむ」という意味である[4]。patriotismの訳語に「愛国」の字を充てた早い例としては、西周の『百字連環』(1870年)が挙げられる。



概説


「愛国心」は祖国に対する愛着である。この愛着は自分の祖国に対しての、民族的、文化的、政治的、あるいは歴史的などの異なった観点によって特徴づけられ、またナショナリズムに近接した概念である[5][6][7]。祖国防衛を超えた過剰な愛国心は、排外主義あるいはジンゴイズムに繋がる場合がある。


国歌や国旗は愛国心の象徴ともされる。



歴史


古代ギリシアの民主制のポリスでは、市民はポリス間の戦争において兵士として国を防衛することが義務であった。
歴史学者エルンスト・カントロヴィチによると、パトリオティズムの源流はホラティウスなどの詩の中に見られる「祖国のために死ぬこと(Pro Patria Mori)」という定型表現に遡ることができるという[4]


中世の封建制では、兵士の自己犠牲は君主に捧げられるものと理解されていたが、封建制が綻びを見せ、共同体が人的結合から領域的結合へと変化した12世紀以降には、祖国という古典古代の観念が復活した[4]。祖国はキリスト教の聖地になぞらえられ、王権はその領域を可視化するシンボルとなった。また、ローマ・カトリック教会は世俗勢力と対抗する中で、もともとイエス・キリストの体を表す「神秘体」という言葉を、共同体を擬似的に人格化した概念を表象する言葉として用いるようになった。神秘体は「道徳的政治体」という防衛するべき単一の神聖な秩序として観念され、暗黒時代以来絶えていた国家についての倫理的価値や道徳的感情の回復に役立った[4]


18世紀、ヨーロッパの啓蒙主義思想家は、従来の教会に対する忠誠より、国家に対する忠誠を重視した。聖職者は彼らの「愛する国」が天国であるため、公立学校で教えることは許されるべきではない、と論じられた。愛国心の古典的概念の最も有力な支持者の1人はジャン=ジャック・ルソーであった[5]。啓蒙主義者らはまた、彼らが過剰とみなした愛国主義は批判した。


1774年、サミュエル・ジョンソンは著作『愛国者』で、彼が偽りの愛国主義と考えたものを批判した。1775年4月7日、彼は有名な「愛国心は卑怯者の最後の逃げ口上」との発言をした[8]


フランス革命 により誕生した近代国民国家であるフランスは、市民革命の波及による王朝転覆を恐れた周辺各王国から攻撃されることなり、それまでの傭兵に代わって革命主体である市民が自ら国の防衛のため戦争を担うこととなった。ここに民主制国家の国民に同時にナショナリズムが高揚した。各国民国家では、国旗や国歌をはじめ、言語、文化、宗教、教育などの標準化が進められ、場合によっては植民地などの被征服地域も含められた。このため少数民族や被征服民族などでは、国家に対する愛国心・忠誠心と、民族による伝統的文化や誇りが分裂する場合も発生した。


第一次世界大戦は総力戦となり、各国では兵士だけでなく国民全体に戦意高揚が求められ、この時期に各国に戦争祈念施設も設立された。また社会主義勢力では、従来はカール・マルクスは「労働者には祖国は無い」と国際主義を提唱していたが、第一次世界大戦の際に各国の戦争に協力する社会民主主義(社会愛国主義)と、レーニン主義の共産主義に分裂し、共産主義でも後のスターリン主義や毛沢東思想では愛国主義が強調された(左翼ナショナリズム)。


第二次世界大戦終結後は、アジア・アフリカ諸国でナショナリズム(民族主義)が高揚し、多数の独立運動や民族解放闘争が行われ、それぞれの地域で愛国心が強調された。



議論


「愛国心」には話者によりその意味するところには大きな幅がある。愛国心の対象である「国」を社会共同体と政治共同体とに切り分けると以下となる。



  • 社会共同体としての「国」に対する愛着は「愛郷心」(あいきょうしん)と言い換えることができる

  • 政治共同体としての「国」に対する愛着は「忠誠心」(loyalty)と言い換えることができる


愛国心によって表出する態度・言動の程度は様々で、ノスタルジーから民族主義や国粋主義まで幅広い。これらを十把一絡げに全て「愛国心」と表現することもできるため、その内容は不明確である。



  • 政府側の期待する「愛国心」は現政府に対する「忠誠心」と解釈できる

  • 反政府側の訴える「愛国心」は革命後の新政府に対する「忠誠心」、もしくは時の政府に靡かない「愛郷心」と解釈できる



愛国心教育



日本



明治維新後、君臣の紐帯が破壊されたことで、人民の忠誠心は行き場を失っていた。明治憲法の創設はヨーロッパの憲法を参考に行われたが、憲法起草者のひとりである井上毅は、当時の日本には西洋のような愛国観念や、キリスト教に当たる教化の素地が無かったと述べており、当時の啓蒙思想家たちも同様の認識を共有していた[4]。明治憲法では、近代的な国民国家を作るために、万世一系の天皇というイデオロギーを国民教育の準拠とし、人民に武士的規範を賦活することで臣民としての遵法精神や忠誠心を養い、国民の協力同心を図る「忠君愛国」というモデルを構築した[4]


学制を実施し、1890年(明治23年)10月30日に発布された教育勅語を国民の教育方針として掲げ、学校教育では「修身」という現在の「道徳」に相当するという主張も一部に存在する科目を設けた。期間の差はあるが、戦争遂行のために大日本帝国の国内(内地および外地の朝鮮・台湾)、その他のアジアの占領地域で、富国強兵路線の為に、国家神道を確立させ、「5. 忠君愛国(大君たる天皇に忠節を誓い、神国日本を愛する)」を根幹に据えた徹底した愛国心教育が行われた。


第二次世界大戦敗戦後は、連合国軍占領下で、占領軍(GHQ/SCAP)が自らの目標とする方向性の情報統制(プレスコード)や教育を行うようになった。日本教職員組合(日教組)などは「教え子を再び戦場に送るな、青年よ再び銃を取るな」(=反徴兵制)をスローガンに掲げ、「お国のために」を禁忌視した。例えば、主に公立学校の教育現場で公的な行為として日の丸掲揚・君が代斉唱を行ない、また児童・生徒に実施することには強く反対した。このように、愛国心(忠誠心)教育は一部の学校を除いて実施されてこなかった(君が代に対する意見の対立については、「国旗及び国歌に関する法律」を参照)。


2006年(平成18年)12月22日に、第1次安倍内閣(自公連立政権)により、「教育基本法」が改正され、その内の第2条「教育の目標」の一つとして、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。」という条文が盛り込まれ、国際化社会の中での愛国心教育の推進を目標に据えるようになった。



中国


1994年に中国共産党の中央宣伝部が「愛国主義教育実施要綱」を起草し、愛国心教育が制度化された[9]。祖国である中華人民共和国を愛することが国民の義務とされ、学校では国旗の掲揚は毎日行い、小学・中学・高校生は全員国歌「義勇軍行進曲」が歌えなければならないとされている。



脚注


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  1. ^ デジタル大辞林、日本大百科全書(ニッポニカ)、他


  2. ^ Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, πατρι-ώτης


  3. ^ Oxford English Dictionary

  4. ^ abcdef嘉戸 2008, pp. 58-92.

  5. ^ ab Historical Dictionary of the Enlightenment - Harvey Chisick - Google Books. Books.google.com. https://books.google.com/books?id=5N-wqTXwiU0C&pg=PA313 2013年11月3日閲覧。. 


  6. ^ “Nationalism (Stanford Encyclopedia of Philosophy)”. Plato.stanford.edu. 2013年11月3日閲覧。


  7. ^ “Patriotism (Stanford Encyclopedia of Philosophy)”. Plato.stanford.edu. 2013年11月3日閲覧。


  8. ^ Boswell, James (1986), Hibbert, Christopher, ed., The Life of Samuel Johnson, New York: Penguin Classics, ISBN 0-14-043116-0 


  9. ^ 岡村志嘉子「中国の愛国主義教育に関する諸規定」、国立国会図書館『レファレンス』2004年12月。[1]




参考文献







  • 『増補 想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』ベネディクト・アンダーソン NTT出版 ISBN 487188516X

  • 『ナショナリズムと自由民権』田村安興 清文堂出版 ISBN 4792405491

  • 『資料で読む 戦後日本と愛国心 全3巻』日本図書センター、2008年-2009年。ISBN 978-4-284-50105-7

  • 『在台日本人の郷土主義(レジョナリズム)』橋本恭子(日本台湾学会報2007.5)[2]

  • 嘉戸一将、鈴木徳男・嘉戸一将(編)、2008、「「忠君」と「愛国」」、『明治国家の精神史的研究:<明治の精神>をめぐって』、以文社 ISBN 9784753102655



関連項目



  • 民族

  • 愛国無罪


  • 民族主義/排外主義/全体主義/ファシズム/国粋主義/ジンゴイズム/ナショナリズム


  • クオーレ - イタリアの愛国小説

  • 国歌

  • 国旗


  • 蛍の光 - 歌われることがなくなった3番と4番


  • 愛国公党 - 日本で初めて「愛国」を名称に冠した組織・団体・結社として知られる。

  • 愛国百人一首

  • 売国奴



外部リンク



  • ナショナリズムと自由民権

  • 『愛国運動現勢』第1輯









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