世界の記憶












世界の記憶(せかいのきおく、英: Memory of the World: MoW)は、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が主催する事業の一つ。危機に瀕した古文書や書物などの歴史的記録物(可動文化財)を保全し、広く公開することを目的とした事業として、1992年に創設された。日本政府は2010年に日本ユネスコ国内委員会の小委員会で「記憶遺産」と訳すことを了承したが、「heritage」など遺産を意味する英単語が正式名称に含まれていないことから、外務省や文部科学省では2016年6月から直訳である「世界の記憶」を用いている[1][2]




記憶遺産のロゴ




目次






  • 1 概要


  • 2 選定手続


    • 2.1 選定基準


    • 2.2 選定指針


    • 2.3 歴史資料の定義


    • 2.4 特徴


    • 2.5 制度改革


    • 2.6 選定後の変更




  • 3 国際諮問委員会総会(MoW選考委員会)


  • 4 登録物件


    • 4.1 ヨーロッパおよび北アメリカ


    • 4.2 アジアおよびオセアニア


      • 4.2.1 日本


      • 4.2.2 大韓民国


      • 4.2.3 中華人民共和国


      • 4.2.4 タイ王国


      • 4.2.5 インド




    • 4.3 アラブ諸国


    • 4.4 アフリカ


    • 4.5 南アメリカおよびカリブ諸国


    • 4.6 国際交流機関




  • 5 地域委員会と地域版、国内委員会と国内版


    • 5.1 地域版


    • 5.2 国内版




  • 6 国際センター


  • 7 障壁


  • 8 関連事業


    • 8.1 直指賞




  • 9 脚注


    • 9.1 注釈


    • 9.2 出典




  • 10 参考文献


  • 11 関連項目


  • 12 外部リンク





概要


歴史的記録物は人類の文化を受け継ぐ重要な文化遺産であるにもかかわらず、毀損されたり、永遠に消滅する危機に瀕している場合が多い(文化浄化)。このためユネスコは1995年、記録物の保存と利用のためのリストを作成して効果的な保存手段を用意するために「世界の記憶」の選定を開始し、記録物保護の音頭を執っている。事業の主要目的は、世界的な重要性を持つ記録物の最も適切な保存手段を講じることによって重要な記録物の保存を奨励し、デジタル化を通じて全世界の多様な人々の接近を容易にし[注 1]、平等な利用を奨励して全世界に広く普及することによって世界的観点で重要な記録物を持つすべての国家の認識を高めることである。


「世界の記憶」と呼ぶと歴史的出来事自体を登録するように誤解されがちだが、歴史的出来事を検証・顕彰できる一次記録物が対象であり、ユネスコでも「the documentary heritage」と称していることから[3]、「世界の記録」「記録遺産」とした方が意味合いとしては適切との指摘もあり、韓国では記憶(기억)でなく記録(기록)としている(세계기록유산)。


ユネスコ内部の担当部署は、情報・コミュニケーション局情報社会部情報アクセス・保存課である。


なお、世界遺産の場合は一般に「登録」(正式には世界遺産リストへの「記載」)と呼ぶが、「世界の記憶」は選定事業であるため、「登録」や「認定」とは言わず、「選定」が正しい呼称となる[3]



選定手続


選定基準は世界歴史に重大な影響をもつ事件・時代・場所・人物・主題・形態・社会的価値を持った記録物を対象とする。申請は原則的に政府および非政府機関を含むすべての個人または団体ができるが、関連地域または国家の委員会(後述する「地域委員会と地域版、国内委員会と国内版」の節参照)が存在するのであれば、その援助を受けることができる。申請権は対象記録を所有する事象当事国に限られる(事象と記録が複数国に跨る場合は双方の合意の上)[3][4]


まず、申請者はユネスコ本部内の一般情報事業局に申込書を提出して書類審査を受けるが、申請は1国で2件までであり、日本の例では3件以上の申し込みがあれば日本ユネスコ国内委員会が2件に絞り込むよう調整が行われる[5]


審査はユネスコ事務局長が任命する委員14名によって構成された「国際諮問委員会 (IAC)」を通じて1997年から2年毎に「MoW選考委員会 (Register Committee)」の場で選定を行っている[3]。国際諮問委員会の委員は、ユネスコの「公共図書館宣言」[6]を遵守する国の公文書館(ユネスコ「図書館統計の国際的な標準化に関する勧告」[7]に定義される)やワールド・デジタル・ライブラリーへ参加する図書館の司書などが多い。委員に求められる資質は、国連出版物の編纂や国際的な図書普及啓蒙活動に関与した実績、典籍研究が広く評価されていることなど。国際図書館連盟 (IFLA) や国際文書館評議会 (ICS) からの推挙もある[3][8]


ただし、最終決定はユネスコ事務局長が行う権限があり、2015年審査分にパレスチナが申請した Palestine Poster Project Archives が、余りにも反ユダヤ主義的で文化摩擦を招きかねないと、イリナ・ボコヴァ事務局長(当時)の判断から、除外された例もある[9]



選定基準


選定における基準は以下のとおりである。


  • 1次的基準



1. 影響力

2. 時間

3. 場所

4. 人物





5. 対象主題

6. 形態及びスタイル

7. 社会的価値

8. ほか




  • 2次的基準


1. 元の状態での保存

2. 希少性

3. ほか



選定指針


対象となる歴史資料は、世界遺産同様に真正性(英語版)が重要であり、これは言い換えれば『信憑性がある』ということになる。


また、近現代史資料に関しては記録の客観性も評価の対象となる傾向がある。2013年に審査されたシンガポール申請の録音テープ媒体「日本占領下の証言集 (Japanese occupation of Singapore oral history collection)」は、戦後かなり経ってからの回顧録で、客観性に欠けるとの理由から不登録となった[10]



歴史資料の定義


ユネスコが定義する記録物とは、1978年に採択した「可動文化財の保護のための勧告」[11]で、(vi) 美術的に重要な物件:独創的創作手段としてのポスターおよび写真、あらゆる材料の独創的美術的なアセンブラージュおよびモンタージュ、(vii) 肉筆および初期の活版印刷による古書・写本・書籍・文書または出版物、(ix) 原文記録、地図その他の製図上の資料を含む文書・写真・映画フィルム・録音物および機械によって解読できる記録、に該当するものとなる。



特徴


世界遺産と無形文化遺産は申請国の法的保護根拠を必要とするが、「世界の記憶」にはそうした条件が求められない。


また、歴史が浅くても構わず、例えば韓国の「光州事件の民主化運動に関する記録」は1980年、フィリピンの「ピープルパワー革命(エドゥサ革命)時のラジオ放送」は1986年、東ティモールの「ターニングポイント:国家誕生の時」は1999年 - 2002年にかけての出来事の資料が選定されている。


世界遺産同様にトランスバウンダリー(国境を越えた複数国による共同申請)も推奨されており、2013年(平成25年)に選定された日本の『慶長遣欧使節関係資料』はスペインとの共同申請によるもので、2017年(平成29年)には民間と地方自治体主導で日韓共同による『朝鮮通信使関係資料』が選定された[12]



制度改革


審査は非公開であり、国家間で見解が異なる係争中の資料を密室審議することへの批判もあり、ユネスコの中立性・政治的利用が懸念されている[13]。このことはユネスコも認めており[14]、日本がユネスコ分担金約44億円の支払いを凍結するなどの異議申し立てもあり制度改革が進められることになり[15]、2018年のユネスコ執行委員会の議題として扱われ、2019年には新制度による審査を実施するとし、それまでは新規の申請を受け付けないこととなった[16]


制度改革案は日本国内でさまざまな意見が発せられており、例えば慰安婦や南京事件の検証を続ける秦郁彦は19世紀以降の事象は除外することを提言している[17]



選定後の変更


「世界の記憶」は選定後に対象物の追加や一部削除は可能であるが(実例なし)[3]、抹消することは出来ないことを松浦晃一郎前ユネスコ事務局長は指摘した[18]。その後、制度改革が進められ、原本が失われた場合や、真正性が否定されることが確認できた場合には選定抹消も可能となった[4]



国際諮問委員会総会(MoW選考委員会)



  • 1993年9月:ポーランド・プウトゥスク(ポーランド語版)…準備委員会

  • 1995年5月:フランス・パリ…準備委員会

  • 1997年9月:ウズベキスタン・タシケント

  • 1999年6月:オーストリア・ウィーン

  • 2001年6月:韓国・慶州

  • 2003年8月:ポーランド・グダニスク

  • 2005年6月:中国・麗江

  • 2007年6月:南アフリカ・プレトリア

  • 2009年7月:バルバドス・ブリッジタウン

  • 2011年5月:イギリス・マンチェスター

  • 2013年6月:韓国・光州

  • 2015年10月:アラブ首長国連邦・アブダビ

  • 2017年10月:フランス・パリ



登録物件




2009年7月31日時点(第9回定期総会終了時点)での選定数の国別分布図[注 2]


世界各地からの多数の選定があり、2005年6月18日時点で57ヶ国120点、2009年7月31日時点では193点(35点追加)[19]、2011年5月25日時点(第10回定期総会終了時点)では268点(75点追加)となった。


個別の詳細は別項「世界の記憶の一覧」を参照のこと。

なお、以下に記述する地域区分はユネスコの発表に準じたものであり、日本で通常的に用いられているものとは大きく異なるので注意が必要。例えば、トルコはヨーロッパに含まれ、エジプトやモロッコなどはアフリカではなくアラブ諸国に含まれる。サウジアラビアなどもアジアではなくアラブ諸国に含まれるが、一方で、オセアニアはアジアと同じ区分として扱われる。



ヨーロッパおよび北アメリカ


ヨーロッパおよび北アメリカ地域では、現在、145点が選定されており、特にドイツの選定数が多い。代表的な登録物件としては、子供と家庭の物語(グリム童話。2005年選定)、バイユーのタペストリー(バイユー・タペストリー美術館所蔵。2007年選定)、ニーベルンゲンの歌(2009年選定)、マグナ・カルタ(イギリス、2009年選定)、アンネの日記(アンネ・フランクによる文学作品[注 3])(2009年登録)[19]、グーテンベルク聖書(2001年選定)、ベートーヴェンの交響曲第9番の自筆楽譜(ベルリン国立図書館所蔵。2001年選定)、共産党宣言及び資本論初版第1部(2013年選定)[20]などが挙げられる。




  • ドイツ (13)、オーストリア (12)、ロシア (11)、ポーランド (10)、デンマーク (8)、フランス (8)、イギリス (8)、オランダ (7)、スウェーデン (6)、ハンガリー (5)、アメリカ合衆国 (5)、リトアニア (4)、ノルウェー (4)、ベルギー (3)、カナダ (3)、チェコ (3)、イタリア (3)、ポルトガル (3)、スロバキア (3)、トルコ (3)、クロアチア (2)、エストニア (2)、フィンランド (2)、ラトビア (2)、セルビア (2)、スペイン (2)、ウクライナ (2)、アルバニア (1)、アルメニア (1)、アゼルバイジャン (1)、ベラルーシ (1)、ブルガリア (1)、アイスランド (1)、アイルランド (1)、ルクセンブルク (1)、スロベニア (1)。


  • ≪外部リンク≫ “Europe and North America” (英語). Memory of the World (official website). UNESCO. 2011年9月20日閲覧。



アジアおよびオセアニア


アラブ諸国を除くアジア、および、オセアニアでは、現在、42点が選定されている。




  • 韓国 (9)、中国 (7)、インド (6)、オーストラリア (5)、イラン (5)、マレーシア (4)、フィリピン (4)、インドネシア (2)、カザフスタン (2)、モンゴル (2)、ニュージーランド (2)、タイ (2)、ウズベキスタン (2)、フィジー (1)、カンボジア (1)、日本 (1)、パキスタン (1)、スリランカ (1)、タジキスタン (1)、ベトナム (1)。


  • ≪外部リンク≫ “Asia and the Pacific” (英語). Memory of the World (official website). UNESCO. 2011年9月20日閲覧。



日本



慶長遣欧使節関係資料
(仙台市博物館蔵)



支倉常長像




ローマ市公民権証書



長らく日本からは推薦が無く、事業そのものの国内における知名度も低かったが、福岡県田川市と福岡県立大学が共同で2010年(平成22年)3月、炭鉱記録画家・山本作兵衛が描き残した筑豊の炭鉱画など約700点の推薦書をユネスコに提出し[21]、翌2011年5月25日、697点の作品が国内初の「世界の記憶」として選定された[22]


一方、政府は2012年3月までに日本ユネスコ国内委員会が推薦するとして、候補に『鳥獣戯画』や『源氏物語絵巻』などが挙がっていたが[23]、2011年5月の記憶遺産選考委員会で国宝の『御堂関白記』と『慶長遣欧使節関係資料』について、日本国政府として初めての推薦が決まり[24][25]、2013年6月に選定された[26]


2015年の選定では舞鶴引揚記念館が所蔵する『舞鶴への生還 1945-1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録』と『東寺百合文書』を申請し[27][28]、いずれも同年10月に選定された[29]。舞鶴引揚記念館資料寄贈者の木内信夫、安田清一は日本初の生存作家となった。


2017年10月には、日韓が共同で申請した江戸時代に朝鮮から日本に派遣された外交使節「朝鮮通信使」に関する資料と、日本独自で申請した古代の石碑群である「上野三碑(こうずけさんぴ)」(群馬県高崎市)が選定された[30][31]


2017年時点で、日本関連とされる物件は以上の7点である[32]



大韓民国


韓国では1997年に朝鮮王朝実録と訓民正音解例本がこのリストに選定された。2001年には朝鮮王朝時代に国家のすべての機密を扱った国王の“秘書室”と言える承政院で毎日扱った文書と事件を記録した『承政院日記』(世界最大の連帯記録物であり、総数3,243冊・2億4250万字に及ぶ)がリストに選定された。2002年金碩洙(キム・ソクス)首相は「ユネスコが地球上の文字の中で、唯一ハングルのみを世界記録遺産に認定した」と発表した[33]。2007年には『グーテンベルク聖書』より約80年古い世界最初の金属活字本と公認されているフランス国立図書館所蔵の『直指心体要節』(1377年、清州興徳寺にて印刷される)も登録された。2015年には、韓国放送公社の特別生放送『離散家族を探しています』が選定されるなど、2015年時点で13点と、現在、アジア太平洋地域では一番多く選定されている。


2015年に日本軍の従軍慰安婦関連資料を申請することを目指し、『国際連帯推進委員会』を結成した[34]。韓国が申請しようとしているのは、ナヌムの家が保管する資料が主体になるが、慰安婦像まで含まれる可能性もある[35]。しかし、2017年の審査では選定の可否が先送り扱いとなった。



中華人民共和国


中国では、『黄帝内経』や『本草綱目』、故宮博物院所蔵の清代歴史文書や、雲南省の古代ナシ族が伝えるトンパ文字による古文書など、10点が選定されている。


2014年、中国政府は南京事件および従軍慰安婦に関する資料を申請した。このうち、南京事件に関する資料が2015年10月に選定された[36]


2017年、中国の申請した甲骨文字が選定された[37]



タイ王国


タイ王国では、同国の近代化に貢献したラーマ5世チュラロンコーン王の政策を記した文書が、2009年に選定されている[19]。選定数は3。



インド


インドでは、リグ・ヴェーダや、ヴィマラプラバー(『時輪タントラ』の註釈書)、ティムール伝の原稿(ムガル帝国初代皇帝ティムールの生涯を描いた挿絵入りの手書き草稿)、ポンディシェリーのシャイヴァ文書、タミル医学文献コレクション、シャーンティナータ・チャリトラ、オランダ東インド会社のアーカイブなど、7点が選定されている。



アラブ諸国


アラブ諸国における現在の選定数は8。




  • エジプト (3)、レバノン (2)、モロッコ (1)、サウジアラビア (1)、チュニジア (1)。


  • ≪外部リンク≫ “Arab States” (英語). Memory of the World (official website). UNESCO. 2011年9月20日閲覧。



アフリカ


アラブ諸国を除くアフリカにおける現在の選定数は8。




  • 南アフリカ共和国 (3)、エチオピア (1)、ガーナ (1)、マダガスカル (1)、モーリシャス (1)、ナミビア (1)。


  • ≪外部リンク≫ “Africa” (英語). Memory of the World (official website). UNESCO. 2011年9月20日閲覧。



南アメリカおよびカリブ諸国


南アメリカおよびカリブ諸国における現在の選定数は62。




  • メキシコ (9)、トリニダード・トバゴ (7)、バルバドス (4)、ブラジル (3)、スリナム (3)、ベネズエラ (3)、アルゼンチン (2)、バハマ (2)、ボリビア (2)、チリ (2)、コロンビア (2)、キューバ (2)、ドミニカ共和国 (2)、ギアナ (2)、ジャマイカ (2)、オランダ領アンティル (2)、セントクリストファー・ネイビス (2)、セントルシア (2)、ベリーズ (1)、バミューダ諸島 (1)、キュラソー島 (1)、ドミニカ (1)、ニカラグア (1)、パナマ (1)、パラグアイ (1)、ペルー (1)、ウルグアイ (1)。


  • ≪外部リンク≫ “Latin America and the Caribbean” (英語). Memory of the World (official website). UNESCO. 2011年9月20日閲覧。



国際交流機関


国際交流機関からの選定は現在3。




  • 国際連合 (2)、赤十字国際委員会 (1)。


  • ≪外部リンク≫ “Registered Heritage” (英語). Memory of the World (official website). UNESCO. 2011年9月20日閲覧。



地域委員会と地域版、国内委員会と国内版


「世界の記憶」にはユネスコ本部と国際諮問委員会が主導する「ワールド・コミッティ」(上記のもの)と、ユネスコ地域事務局と地域委員会による地域版の「リージョナル・コミッティ」、そしてユネスコ憲章が定める国内協力団体として各国政府が設置するユネスコ国内委員会が選定する国内版の「ナショナル・コミッティ」がある。地域委員会は現在、アジア太平洋、アフリカ、ラテンアメリカ・カリブ諸国の三つの区域がある。地域版も選定基準は世界版に準じるが、当該地域における重要性を重視する[4][38]



地域版


アジア太平洋地域版に日本としては初となる選定物件として全国水平社の資料が登録されたほか、日本と共同歩調を取った韓国申請による水平社運動に連動した朝鮮衡平社の資料も登録された[39]。また、シンガポールが世界版に申請し棄却された「日本占領下の証言集」が中国の支援をうけ地域版に再申請されたが、こちらでの選定にも至らなかった[40]


2018年の選定を目指す国内候補を日本ユネスコ国内委員会が公募し、「伊能忠敬測量記録・地図」(千葉県香取市)、「画家加納辰夫の恒久平和への提言 フィリピン日本人戦犯赦免に関わる運動記録」(島根県・加納美術振興財団)、「松川事件・松川裁判・松川運動の資料」(福島大学)の3件の申請があったが、「世界的重要性、唯一性・代替不可能性などの選考基準に照らし合わせ、推薦すべき物件がないと判断した」とし、推薦を行わないこととした[41]



国内版


国内版は日本ユネスコ国内委員会が2010年に記憶遺産担当窓口を設けているが、選定は行っていない。具体的な国内版の「世界の記憶」を選定している事例としては、ベトナムの「ベトナム独立宣言」などがある[38]



国際センター


世界遺産における世界遺産センターに相当する「記録遺産国際センター(International Center for Document Heritage)」を、韓国の清州市に設立することが決まった。ここでの業務は、登録された記録物の管理や関連政策の研究などを行う[42]



障壁


世界遺産・無形文化遺産とともにユネスコ三大遺産事業と形容される「世界の記憶」だが、決定的に違うのは世界遺産と無形文化遺産が条約に基づく保護活動であるのに対し「世界の記憶」は単なる選定事業に過ぎないことである。


このことから、ユネスコ未加盟の台湾(中華民国)が2010年に甲骨文字コレクションを申請したものの受理されなかった経緯がある[43]



関連事業


ユネスコは1980年に「動的映像の保護及び保存に関するユネスコ勧告」を採択し、文書のみならず映像資料の保存にも乗り出しており、「世界視聴覚遺産 (Audiovisual Heritage)」として保護を呼び掛け[44]、「世界の記憶」にも反映されている。



直指賞


韓国の直指心体要節が2001年に「世界の記憶」に選定されたことを記念し、韓国政府が記録遺産の保存とデジタル化情報発信に寄与した選定物件所有者を顕彰すべく、2004年に「直指賞 (Jikji Memory of the World Prize)」を創設し、翌年から2年毎に国際諮問委員会の会合に合わせて表彰している[45]



脚注


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注釈





  1. ^ 選定資料デジタル化公開の好例はイスラエルのヤド・ヴァシェムにおけるホロコースト証言集が上げられる、Last Letters From The Holocaust: 1943:I Left Everyone At Homeを参照


  2. ^ この時点で日本の登録数はゼロ。


  3. ^ 言及されていないが、原テキストと初版本の一部が対象か。原テキストはオランダ国立戦時資料研究所が所蔵。




出典





  1. ^ 「記憶遺産」改め「世界の記憶」、外務省が日本語名称変更 : 文化 読売新聞(YOMIURI ONLINE)、2016年6月11日


  2. ^ 記憶遺産「世界の記憶」に 文科省が表記変更 産経ニュース、2016年6月20日

  3. ^ abcdefGeneral Guidelines to Safeguard Documentary Heritage(記録遺産保護のためのガイドライン) (PDF) - UNESCO

  4. ^ abcユネスコ記憶遺産 登録の手引(仮訳) (PDF) (文部科学省)


  5. ^ “ユネスコ記憶遺産推薦から登録までの工程について”. 文部科学省. 2014年3月3日閲覧。


  6. ^ ユネスコ公共図書館宣言 1994年 日本図書館協会


  7. ^ 図書館統計の国際的な標準化に関する勧告 (PDF) (文部科学省)


  8. ^ 国立国会図書館月報433号 ユネスコ「世界の記憶」プログラム・アンケート結果報告-日本国内の図書館における資料保存活動 資料保存対策室


  9. ^ “UNESCO Director Rejects Palestine Entry to ‘Memory of the World’ Program”. The Jewish Press. 2015年2月7日閲覧。


  10. ^ Japanese Occupation of Singapore Oral History Collection (Singapore) (PDF) - UNESCO


  11. ^ 可動文化財の保護のための勧告 (PDF) - 文部科学省


  12. ^ NPO法人 朝鮮通信使縁地連絡協議会


  13. ^ “世界記憶遺産 選定には公開の議論を”. 東京新聞 (中日新聞社). (2015年10月16日). オリジナルの2015年10月19日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20151019043934/http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015101602000135.html 


  14. ^ 記憶遺産 透明性の欠如認める 時事通信2015年11月6日(Yahoo!ニュース)


  15. ^ ユネスコ記憶遺産の制度改革「進展している」 外務省 朝日新聞2016年4月29日


  16. ^ ユネスコ、「世界の記憶」制度改正へ行動計画案発表 7月に改正案作成へ 産経新聞2018年3月31日


  17. ^ 読売新聞2017年11月29日


  18. ^ 南京登録は日本外交の“敗北” 松浦前ユネスコ事務局長「部分的に取り消す手順ある」 産経新聞(2015年10月16日)2015年10月17日閲覧

  19. ^ abc“「アンネの日記」、ユネスコが世界記憶遺産に登録”. AFPBB News(ウェブサイト) (フランス通信社). (2009年7月31日). http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2626596/4412911 2011年9月19日閲覧。 


  20. ^ Schriften von Karl Marx: "Das Manifest der Kommunistischen Partei" (1848) und "Das Kapital", ernster Band (1867)


  21. ^ “山本作兵衛の炭鉱画「ユネスコ記憶遺産に」”. Yomiuri Online (読売新聞社). (2010年4月8日). オリジナルの2010年4月30日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/20100430020124/http://kyushu.yomiuri.co.jp/local/fukuoka/20100408-OYS1T00235.htm 2011年5月26日閲覧。 


  22. ^ “筑豊の炭鉱画、国内初の「記憶遺産」に 山本作兵衛作”. asahi.com (朝日新聞社). (2011年5月25日). オリジナルの2011年5月28日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110528000201/http://www.asahi.com/culture/update/0525/SEB201105250050.html 2011年5月26日閲覧。 


  23. ^ “ユネスコ「記憶遺産」日本も推薦へ…鳥獣戯画など”. Yomiuri Online (読売新聞社). (2010年3月3日). オリジナルの2011年5月14日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/20110514142133/http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20110511-OYT1T00800.htm 2010年3月3日閲覧。 


  24. ^ “御堂関白記など、ユネスコ記憶遺産に推薦”. Yomiuri Online (読売新聞社). (2011年5月11日). http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20110511-OYT1T00800.htm 2011年5月26日閲覧。 [リンク切れ]


  25. ^ “藤原道長の自筆日記などユネスコ「記憶遺産」に推薦へ 文科省”. 日本経済新聞. (2011年5月11日). http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1103P_R10C11A5CR8000/ 2016年9月30日閲覧。 


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  27. ^ “記憶遺産候補に「東寺百合文書」「舞鶴引き揚げ記録」”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2014年6月12日). オリジナルの2014年6月12日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140612160426/http://www.asahi.com/articles/ASG6C43Q0G6CUCVL00S.html 


  28. ^ “「ユネスコ記憶遺産事業」の平成26年の審査に付する案件の選定について-第128回文化活動小委員会の審議結果-”. 文部科学省. (2014年6月12日). http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/06/1348757.htm 


  29. ^ “シベリア抑留が世界記憶遺産登録 ユネスコ決定、東寺文書も”. 共同通信社. 47NEWS. (2015年10月10日). http://www.47news.jp/CN/201510/CN2015100901002199.html 2015年10月10日閲覧。 


  30. ^ “世界記憶遺産に「朝鮮通信使」”. 2018年3月4日閲覧。


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  33. ^ 제556돌 한글날 기념식(第556周年ハングルの日記念式)ハンギョレ新聞、2002年10月9日。


  34. ^ 「慰安婦資料、世界遺産へ国際委=韓国」『時事通信』2015年5月7日


  35. ^ “世界遺産登録を目指す韓国「慰安婦関連記録物」 “着せ替え”慰安婦ブロンズ像の神格化が進行中!?”. livedoor NEWS. サイゾー (2015年5月23日). 2015年5月25日閲覧。


  36. ^ “南京大虐殺、世界記憶遺産に登録 ユネスコが発表”. 共同通信社. 47NEWS. (2015年10月10日). http://www.47news.jp/CN/201510/CN2015100901002205.html 2015年10月10日閲覧。 


  37. ^ “甲骨文字がユネスコ世界遺産に登録”. 人民日報. 人民網. (2017年11月25日). http://j.people.com.cn/n3/2017/1125/c206603-9296990.html 2018年5月19日閲覧。 

  38. ^ abMemory of the World Committee for Asia and the Pacific UNESCO


  39. ^ 水平社と朝鮮・衡平社の交流、記憶遺産地域版に登録 日本経済新聞 2016年5月25日


  40. ^ 「華僑虐殺」を記憶遺産アジア太平洋地域版に申請 大戦中の旧日本軍 投票で不登録 産経新聞 2016年5月24日


  41. ^ 国内候補の推薦せず=18年登録「世界の記憶」地域版 時事通信社 2017年7月28日(Yahoo!ニュース)


  42. ^ 韓国、ユネスコ新組織誘致 世界記憶遺産を管轄東京新聞 2017年11月7日


  43. ^ 台湾 ユネスコから門前払い―世界で最もそろっている甲骨文字がなぜ? - YouTube(ニュース動画)


  44. ^ World Day for Audiovisual Heritage - UNESCO


  45. ^ Jikji Memory of the World Prize - UNESCO




参考文献



  • 清州古印刷博物館パンフレット

  • 『世界記憶遺産データ・ブック-2015〜2016年版-』(シンクタンクせとうち総合研究機構)

  • 『世界の記憶遺産60』(幻冬舎)



関連項目



  • 文化遺産保護制度

  • 世界の記憶の一覧



外部リンク




  • 「世界の記憶」 - 日本ユネスコ国内委員会(文部科学省サイト内)


  • ユネスコ「世界の記憶」選考委員会 - 日本ユネスコ国内委員会(文部科学省サイト内)


  • 「世界の記憶」公式サイト(英語) - ユネスコ








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