ブロイラー
ブロイラー(英語: broiler)は、肉鶏の一品種。食肉専用・大量飼育用の雑種鶏の総称。
目次
1 概要
2 飼育方法
2.1 入雛
2.2 換気管理
2.3 ワクチンと抗生物質
2.4 光線管理
2.5 出荷
3 動物福祉に関する規制
3.1 世界動物保健機関(OIE)
3.2 欧州連合(EU)
3.3 日本
3.4 諸外国における企業の取り組み
4 主な生産国
5 脚注
6 関連項目
概要
短期間で急速に成長させる狙いで作られた品種である。具体的品種としてはチャンキー、コッブ、アーバーエーカなどが主なものとなる。生育がとても早く、生後数週間で出荷され最大2kg前後の肉が取れることで知られている。2017年度には6億7771万3千羽のブロイラーが出荷されている[1]。
ブロイラーは徹底した育種改変の研究により、過去50年間で成長率が1日25gから100gへとあがっている。その結果通常、鶏は成鶏に達するのに4〜5か月かかるところをブロイラーは40〜50日で成鶏の大きさに達するようになった。そのため、急激な成長によりブロイラーの30%近くは体を支えることが難しく歩行困難となり、3%はほとんど歩行不能となっている。心臓にも負担がかかり、100羽に1羽は心臓疾患で死亡する[2]。
もともとはアメリカの食鶏規格の用語で、孵化後2か月半(8-12週齢)以内の若鶏の呼称である。ブロイル(broil)とは、オーブンなどで丸ごと炙り焼きすることの意味で、ブロイルして売るのに適した大きさの鶏であるためこう呼ばれた。日本には第二次世界大戦後にくいだおれ創業者の山田六郎によってアメリカから導入された。
飼育方法
採卵用鶏の場合はケージ飼育が主流であるが、肉用鶏のブロイラーの場合は99.9%が平飼い飼育である。ブロイラーはオールイン・オールアウトといって、同一の鶏舎には同じ孵化日の雛(採卵鶏と違いオスの雛も飼養される)だけを入れ(オールイン)、これを育ててすべて出荷する(オールアウト)方法が主流である[3]。
生産性を追求するために、合理化された大規模な密閉型の鶏舎の中に収容され、通常他の生産システムより高い飼養密度で飼養されている。年々ブロイラーの飼養戸数が減少を続けているのに対し、1戸当たりの飼養羽数は着実に増加しており[1]、平均飼育密度は16~19羽/㎡、最大で約22羽/㎡[4]となっている。
入雛
徹底した除糞・殺虫・水洗・消毒が行われた鶏舎へ、購入した雛が入れられる。(雌雄別飼方法と混飼方法とがある)
換気管理
鶏舎内の空気状態は、換気扇によりコントロールされる。密飼いの鶏舎内は鶏の排泄した糞尿の分解産物であるアンモニアや、ホコリ、鶏の呼気による二酸化炭素等により、鶏舎環境が悪化しやすいため換気が重要である。特に鶏は気嚢という呼吸器官を全身に持っており、空気環境の影響を受けやすい[5]。
鶏舎内温度も換気扇によりコントロールされる。外気温が高いときは換気量を増やし、低いときは換気量を減らす。ブロイラーは成鶏に達する前の中雛の段階で出荷されるが、雛の羽毛の発達は未完成であるため放熱されやすく寒さに弱い。また暑さにも弱く、ブロイラーの熱射病による死亡は、毎年5~20%の発生が認められている[6]。鶏には汗腺が殆どなく呼吸によって体熱を放散させるため、高温下に長時間置かれると過呼吸となり熱射病になりやすい。特にブロイラーは短期間で大型に成長するよう育種改変されていることや、高密度での飼養によって床面付近の温度が上昇しやすいことも要因のひとつである。
ワクチンと抗生物質
日齢に応じて、穿刺・混餌・飲水・散水などの方法で出荷までに数十回のワクチンが投与される[7]。抗生物質も多用されており、2015~17年度に実施された厚生労働省研究班の調査では、国産の鶏肉の59%から抗生物質耐性菌が検出された。研究班の富田治芳・群馬大教授は「半数という割合は高い」と指摘し家畜や人で「不要な抗菌薬の使用を控えるべきだ」と訴えている[8]。
光線管理
照明時間を長くして摂食行動を活発にさせることでブロイラーの増体につながると考えられてきたため24時間点灯、夜間点灯、23時間点灯などの光線管理が行われることがある。日本のブロイラー養鶏では50.8%が光線管理を行っており68.1%が暗期の設定を行っていない[4]。しかし長時間の点灯が必ずしも増体につながるとは言えないという報告もある[9]。暗期を設けない光線管理は動物福祉の観点からも問題があり、アニマルウェルフェアの考え方に対応したブロイラーの飼養管理指針では暗期の設定が推奨されている。
出荷
生後51〜55日、体重2.5〜3㎏で出荷される。
ブロイラーにおける一般的衛生管理マニュアルには出荷マニュアルとして
- 出荷前7日前から休薬飼料(抗菌性物質が入っていない飼料)を給与し、責任者に報告すること。(体内に抗生物質が滞留したままとなるため)
- 照明は出荷前7日前から24時間点灯し、責任者に報告すること。
などが求められている[10]。
動物福祉に関する規制
世界動物保健機関(OIE)
陸生動物衛生規約の動物福祉コード「動物福祉とブロイラー鶏生産方式」の中で
- 肉用鶏の休息のため、24時間周期ごとに、適切な長さの連続した暗期を設けるべきである。適切な長さの連続した明期も必要である。
- 肉用鶏は飼料と水を摂ることができ、身体を動かし、正常な姿勢を取ることができるような飼育密度で舎飼いされなくてはならない。
- 遺伝系統を選択する際には、生産性だけでなく福祉や健康面も考慮しなくてはならない。
などの記述がある。なお、OIE加盟国は、本コードを国内で周知することが求められている。本コードには日本も批准している。
欧州連合(EU)
EU指令 肉用鶏保護の最低限の規則(COUNCIL DIRECTIVE 2007/43/EC of 28 June 2007)の中で
- 鶏が建物内に入れられてから7日以内に、また屠殺予定の3日前までは、照明は24時間のリズムに従わなければならず、少なくとも6時間以上の暗闇の期間が含まれなければならない。
- 飼育密度は33kg/㎡を超えてはならない。
などの記述がある。なお、33kg/㎡は約16羽/㎡である。同指令の中で、EU加盟国はこれらの規則に対応した、罰則の伴う国内法の整備が求められている。
日本
畜産技術協会は、「アニマルウェルフェア(動物福祉)に対応したブロイラーの飼養管理指針」 (PDF) を2010年3月に公表[3]した。同指針の中で
- 鶏の生産性や快適性を調べた海外の知見等からは、55~60羽/坪程度にとどめることが推奨される。しかしながら、飼養期間や飼養管理等が欧米と大きく異なることから、飼養スペースと生産性の関係等について今後の知見の集積が必要である。
- 一定時間の暗期を設けることは、鶏の休息やストレス低減、脚の健康強化等のために必要とされており、突然の停電時のパニックの防止に有益であるとともに、飼料効率や育成率の改善にも効果があることが知られている。
などの記述がある。なお、55~60羽/坪は約16~18羽/㎡である。本指針は法的な拘束力を伴わない。
諸外国における企業の取り組み
クラフト・ハインツ、ネスレ、ユニリーバ、ダンキンドーナツ、バーガーキングなど86の企業が、ブロイラーの飼育密度や遺伝的選択(ゆっくり育つ遺伝系統の選択)、屠殺方法などにおいて動物福祉基準を公表している[11]。
主な生産国
ブラジル - ブロイラーの生産量のおよそ5割を占め、日本が最大の輸出国である。
中華人民共和国 - 外食産業、冷凍食品などの加工用としての生産が中心。
タイ王国 - 中華人民共和国同様に外食産業、加工用としての生産が中心。
アメリカ合衆国 - 外食産業、大規模小売店向けに生産される。
脚注
- ^ ab政府統計 平成29年度畜産統計調査
^ フィリップ・リンベリー『動物と環境にやさしい畜産をめざしてシンポジウム』2002年11月30日
- ^ ab社団法人 畜産技術協会「ブロイラーの飼養管理指針」
- ^ ab平成26年度飼養実態アンケート調査報告書 社団法人畜産技術協会
^ 松阪コッブファーム株式会社 ブロイラーの生理と飼育環境
^ 岩間ら 1994 ブロイラー飼養管理 ―飼養管理・環境がブロイラーの生産機能に及ぼす影響― 京都府畜産研究所試験研究成績第34号:111-118
^ 参考/独立行政法人 家畜改良センター兵庫牧場 ワクチネーション
^ 薬効かない菌 鶏肉の半数から検出 厚労省研究班 2018年3月31日 日本経済新聞
^ ブロイラーの光線管理 カナダ サスカチュワン大学
^ 農林水産省 家畜の生産段階における衛生管理ガイドライン 平成14年
^ http://welfarecommitments.com/broiler/
関連項目
- ニワトリ
- 地鶏
- 養鶏
- 鶏肉
- 鶏卵