旅行者下痢




旅行者下痢(りょこうしゃげり)は、渡航者下痢とも呼ばれ、主に国外旅行者が滞在先で遭遇する激しい下痢症状を指す。高齢者よりも若者がなる例が多いという。俗にいう食あたり、水あたりを発症したことをさす。


水分を摂ってホテルなどで安静にしていれば快復するケースが多いが、感染症が原因の場合は治療が必要である。




目次






  • 1 原因


    • 1.1 病原体


      • 1.1.1 旅行者下痢の原因となり得る主な感染症の早見表




    • 1.2 水質によるもの


    • 1.3 慣れない食材


    • 1.4 ストレスによる体調不良




  • 2 予防


  • 3 治療


  • 4 関連項目





原因


主に外国の飲食物の摂取によるものとみられる(手洗いを徹底しないなど、接触のケースもありうるだろうが)。俗に外国の水や食物が「あわない」と言うが、これは外国の細菌や微生物への耐性や免疫が低かったり、外国特有の食材・物質・成分の処理能力が欠如していたりすることである。また、外国ならではの多量な使用量や、成分濃度に対して処理しきれないということもある。



病原体


細菌・ウイルス、寄生虫、毒素など。


約2割が該当し、体調不良による抵抗力低下が引き金になりがちである。一般細菌による食中毒、腸炎ビブリオ、NAGビブリオ、サルモネラ菌、ウェルシュ菌、クリプトスポリジウム、キャンピロバクターなどの事例が多いとされる。この他、病原性大腸菌、セレウス菌、A型肝炎、E型肝炎、アメーバ赤痢、赤痢、腸チフス、パラチフス、コレラ、ノロウイルス、貝毒などによる症例もある。伝染病に該当する場合は現地の医療機関で診察・治療を受け、帰国後は検疫所で申告する必要がある。



旅行者下痢の原因となり得る主な感染症の早見表















































































































































































旅行者下痢の原因となり得る主な感染症の早見表
  細菌性赤痢
コレラ 
腸チフス パラチフス
腸管出血性大腸菌感染症

腸炎ビブリオ感染症

サルモネラ感染症
A型肝炎 E型肝炎
ノロウイルス感染症

病原体
赤痢菌
ビブリオ属コレラ菌

サルモネラ属菌の一部菌株
サルモネラ属菌の一部菌株
O157などの腸管出血性大腸菌(ベロ毒素を産生するもの)
ビブリオ属腸炎ビブリオ
サルモネラ属菌
ピコルナウイルス科A型肝炎ウイルス
E型肝炎ウイルス
カリシウイルス科ノロウイルス
主な感染源、原因食品
種々の食品、飲料水、感染者の糞便、サル

魚介類、飲料水、感染者の糞便
種々の食品、飲料水、感染者の糞便、ネズミ
種々の食品、飲料水、感染者の糞便、ネズミ 生の牛肉、ウシ

貝類などの魚介類

生肉、生の鶏卵、家畜、鳥、爬虫類
貝類などの魚介類
豚肉、鹿肉、ブタやシカなどの哺乳類、飲料水
種々の食品、感染者の糞便
二次感染(ヒトからヒトへの伝染)
多い あり 多い 多い あり あり 多い
主な症状
激しい腹痛、下痢、血便、発熱
水様性下痢、嘔吐、脱水症状
高熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感、発疹
腸チフスと似たような症状が現れる 激しい腹痛、下痢、血便 腹痛、下痢、嘔吐 発熱、腹痛、下痢、嘔吐 発熱、倦怠感、食欲不振、黄疸
A型肝炎と似たような症状が現れる 腹痛、嘔吐、下痢

糞便の性状
水様便、ときに血便
「米のとぎ汁」と形容されるほどの真っ白な水様便 水様便 水様便 水様便、ときに血便 水様便 水様便 水様便、ときに白色 水様便、ときに白色 水様便

血便(下血)
多い 重症例ではあり 重症例ではあり 多い 重症例ではあり 重症例ではあり

腹痛
激しい 軽い 重症例では激しい 重症例では激しい 激しい 強い 強い あり あり あり

嘔吐
少ない 多い 少ない あり あり あり あり 多い

発熱
あり 少ない 高熱(38℃以上) 高熱 軽度(37℃台) 軽度 多い 多い 多い 軽度
合併症

溶血性尿毒症症候群(HUS)、ライター症候群
重度の脱水症状

腸穿孔、敗血症
腸穿孔、敗血症 溶血性尿毒症症候群(HUS)、急性腎不全、溶血性貧血、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP) 稀に劇症肝炎
劇症肝炎
予防法
生ものや生水を避ける、食前の加熱殺菌、手洗い、うがい
魚介類の生食を避ける、食前加熱

腸チフスワクチン接種 食前加熱、手洗い、ネズミの駆除
ネズミの駆除、食前加熱、手洗い
牛肉の生食を避ける、加熱殺菌、冷凍冷蔵、動物に触れた後の手洗い
魚介類の生食を避ける、加熱殺菌、冷凍冷蔵 ネズミの駆除、動物に触れた後の手洗い、加熱殺菌、冷凍冷蔵
A型肝炎ワクチン接種

肉類の生食を避ける、生水を飲まない
食前加熱、手洗い、うがい、二次感染の防止

感染症法
三類感染症 三類感染症 三類感染症 三類感染症 三類感染症 四類感染症 四類感染症


水質によるもの


生水(加熱処理していない水道水)の衛生が問題な時は、上記の病原体に感染するリスクがある。


その他に原因と考えられるものに水の硬度がある。日本国内の水は世界的に見て超軟水であるため、主にヨーロッパなどの硬水による下痢が多い。また、地元では馴染みの衛生的な食材でも、食べ慣れない者には胃が受け付けないことがある。



慣れない食材


調理油、香辛料ほか、普段は摂取しない食材などによる一過性の胃腸障害もある。
発酵食品など複雑な成分をもつものは、加熱後であっても多量に摂ることは避けるべきである。油や香辛料は酸化による変性が原因となりがちである。早ければ3~4日で快復するが、10日以上あるいは帰国するまで長引く場合もある。



ストレスによる体調不良


旅行のスケジュールにより疲労が蓄積したり、ストレスをきたしたがために、胃腸炎をおこし、下痢の症状がでることもあろうが、こうしたタイプのストレスは、別に外国旅行の条件下でなくとも本人の健康管理などの問題次第でおこりうるので、果たしてわざわざ「旅行者下痢」と称するべきか疑問である。


渡航中のエコノミークラス症候群や船酔いに起因したり、飛行機による時差ぼけが尾を引いたりするせいで下痢気味になるのも、滞在先で受けるものではないので、本来の旅行者下痢の延長線上とみるべきであろう。もちろん、症状が出たときは何が原因か必ずしもはっきりするものではないので、これらは正しい診断を受けた場合の結果論である。


旅行前からすでに不調を感じていることも多く、出発前後の無理なスケジュールや、不潔・不安感を刺激される滞在先環境などにより引き起こされる。多くの場合は次第に慣れることなどで、ほどなく改善する傾向にある。



予防



体調管理

体調不良そのもの、あるいは感染症に見舞われる引き金となることから、出発前の体調管理は重要な予防策となる。基本的に食中毒に対する注意が有効で、生ものを避け、手洗いうがいを心がける。ただし、一部の病原体は加熱調理でも防げない。

予防接種

特定の感染症が流行している地域へ向かう場合、その感染症のワクチンが接種可能ならば予防策となりうる。そのほか腸管毒素原性大腸菌(ETEC)に対するワクチンが旅行者下痢専用として開発されている。但し、リスクのない予防接種は存在しない事を十分理解して行う必要がある。



治療


もし帰国後も症状が続くようなら、早急に医師の診察を受ける。以下に現地での応急処置に関する情報を記す。



水分補給

下痢で危険なのは、水分と電解質の損失による脱水症状である。従って、コレラなどの重大な感染症でも適切な水分補給で脱水症状を防げば、高い確率で重症化を回避することが出来る。下痢の治療のための水分補給では、単なる水では効果が期待できず、糖分と塩類濃度の溶液を摂る必要がある。これを経口補液療法(Oral rehydration therapy)といい、排泄物と同じ量の電解質溶液をとり続けて回復を待つ。WHO推奨レシピは、水1リットルに食塩3.5g、塩化カリウム1.5g、重曹2.5g、ブドウ糖20g、である。薬局で手にはいるが、無ければ粉末タイプのスポーツドリンクを2倍に薄く作ったものが最も好適で、その他ヤシ果汁や適当な菓子類を塩水で溶いたもの、あるいは薄めた海水等が利用可能である。

ただし、水分を補いながら半日程度安静にしていても回復しなければ、または患者が小児だったり、ひどい腹痛や高熱を伴う、排泄物に多量の血液が見られる、などの場合は早急に予定を変更し、医療機関を頼るべきである。

治療薬

抗生物質や下痢止めの使用は要注意。これらは往々にして症状を悪化させる。

かつて病原性大腸菌の患者に下痢止めを処方して重態化を招いてしまった様に、激しい下痢症状には下痢止めを控え、排泄を促すべきとされる。下痢止めが治療効果を発揮するのは、脱水症状の防止や下痢による体力消耗を防ぐ目的で使用する場合に限られる。抗生物質はさらに適切な使用が難しく、少なくとも不用意な服用は避けるべきである。



関連項目



  • コレラ

  • 過敏性腸症候群

  • 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

  • 下痢

  • 脱水症状

  • 経口補水塩

  • 輸入感染症











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