昇鎖条件
昇鎖条件(しょうさじょうけん、英: ascending chain condition; ACC)および降鎖条件(こうさじょうけん、英: descending chain condition; DCC)とは、ある代数的構造が満たす有限性に関する性質である。これらの性質を持つ代数的構造で最も代表的なものに、可換環のイデアルがある[1][2][3]。昇鎖条件および降鎖条件は、ダフィット・ヒルベルト、エミー・ネーター、エミール・アルティンらが可換環の構造に関する理論を構築する上で、重要な役割を果たした。
昇鎖条件および降鎖条件それ自体は、いかなる半順序集合に対しても意味を持つような、抽象的な形式で表すことができる。この考え方は Gabriel–Rentschler による抽象代数の次元に関する理論において有用である。
目次
1 定義
1.1 注釈
2 脚注
3 関連項目
4 参考文献
定義
半順序集合 P において、任意の真の上昇列 a1 < a2 < a3 < ... が有限回で止まるときに昇鎖条件が成り立つと言う。この条件は次のようにも言い換えられる。任意の列
- a1≤a2≤a3≤⋯{displaystyle a_{1}leq a_{2}leq a_{3}leq cdots }
に対して、ある自然数 n が存在して、
- an=an+1=an+2=⋯{displaystyle a_{n}=a_{n+1}=a_{n+2}=cdots }
が成り立つ。
同様に、半順序集合 P において、任意の真の下降列 a1 > a2 > a3 > ... が有限回で止まるときに降鎖条件が成り立つと言う。この条件は次のようにも言い換えられる。任意の列
- a1≥a2≥a3≥⋯{displaystyle a_{1}geq a_{2}geq a_{3}geq cdots }
に対して、ある自然数 n が存在して、
- an=an+1=an+2=⋯{displaystyle a_{n}=a_{n+1}=a_{n+2}=cdots }
が成り立つ。
注釈
- 「無限に続く真の上昇/下降列がない」ことと少し異なるそれよりも強い条件として、「任意に長い真の昇鎖/降鎖列が存在しない」(つまり列の長さの最大値が存在する)というものがある。
- 降鎖条件を満たすことと、整礎であること、つまり任意の空でない部分集合が極小元をもつことは同値である。これは極小条件 (minimal condition) とも呼ばれる。
- 昇鎖条件を満たすことと、逆整礎であること、つまり任意の空でない部分集合が極大元をもつことは同値である。これは極大条件 (maximal condition) とも呼ばれる。
- 有限半順序集合は昇鎖条件と降鎖条件を満たす。
- 降鎖条件を満たす全順序集合は整列集合と呼ばれる。
脚注
^ Hazewinkel, Gubareni & Kirichenko 2004, p. 6, Prop. 1.1.4.
^ Fraleigh & Katz 1967, p. 366, Lemma 7.1.
^ Jacobson 2009, pp. 142, 147.
関連項目
アルティン環・アルティン加群
ネーター環・ネーター加群
- クルル次元
- 主イデアルに対する昇鎖条件
- 半群合同における極大条件
参考文献
Atiyah, M. F.; MacDonald, I. G. (1969). Introduction to Commutative Algebra. Perseus Books. ISBN 0-201-00361-9.
Hazewinkel, Michiel; Gubareni, Nadiya; Kirichenko, V. V. (2004). Algebras, rings and modules. Kluwer Academic Publishers. ISBN 1-4020-2690-0.
Fraleigh, John B.; Katz, Victor J. (1967). A first course in abstract algebra (5 ed.). Addison-Wesley Publishing Company. ISBN 0-201-53467-3.
Jacobson, Nathan (2009). Basic Algebra. I. Dover. ISBN 978-0-486-47189-1.