逮捕







アメリカの警察に逮捕された男性


逮捕(たいほ)とは、犯罪に関する被疑者の身体的拘束の一種。


逮捕の意味は各国での刑事手続の制度により大きく異なる。日本法における逮捕は捜査官のいる場所への引致である[1]。英米法における逮捕は裁判官に引致するための制度であり、日本法では勾留請求は逮捕とは異なる新たな処分とされているから、英米法の逮捕と日本法の逮捕とは全く制度を異にする[2]




目次






  • 1 日本法における逮捕


    • 1.1 逮捕の諸原則


    • 1.2 逮捕の種類


      • 1.2.1 通常逮捕


      • 1.2.2 緊急逮捕


      • 1.2.3 現行犯逮捕






  • 2 英米法における逮捕


  • 3 国際刑事裁判所の刑事手続における逮捕


  • 4 逮捕と人権


    • 4.1 無罪推定の原則


    • 4.2 逮捕と大衆意識


    • 4.3 身体検査


    • 4.4 海外渡航等の制限




  • 5 参考文献


  • 6 脚注


  • 7 関連項目





日本法における逮捕
































逮捕は、捜査機関または私人が被疑者の逃亡及び罪証隠滅を防止するため強制的に身柄を拘束する行為である。


現行法上、逮捕による身柄の拘束時間は原則として警察で48時間・検察で24時間の最大72時間(検察官による逮捕の場合は48時間)である。



逮捕の諸原則


逮捕の諸原則として逮捕前置主義・事件単位の原則・逮捕勾留一回性の原則がある。



逮捕の種類


現行法上、逮捕には通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類がある。



通常逮捕


通常逮捕とは、事前に裁判官から発付された令状(逮捕状)に基づいて、被疑者を逮捕することである(憲法33条、刑訴法199条1項)。これが逮捕の原則的な法的形態となる。


逮捕状の請求権者は、検察官又は司法警察員[3]である(刑訴法199条2項)。逮捕状の請求があったときは、裁判官が逮捕の理由(「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」。嫌疑の相当性)と逮捕の必要を審査して、逮捕状を発付するか(同条、刑訴規143条)、請求を却下するか判断する。ただし、法定刑の軽微な事件[4]については、被疑者が住居不定の場合又は正当な理由がなく任意出頭の求めに応じない場合に限る(刑訴法199条1項)。裁判官は、必要であれば、逮捕状の請求をした者の出頭を求めてその陳述を聴き、又はその者に対し書類その他の物の提示を求めることができる(刑訴規143条の2)。




逮捕に際しては社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度で実力行使が認められると解されている。


逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない(刑訴法201条1項)。逮捕状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、被疑者に対し被疑事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができる(同条2項・73条3項。緊急執行)。ただし、令状は、できる限り速やかにこれを示さなければならない(同条2項・73条3項ただし書)。


明文規定はないものの、逮捕に際しては社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度で実力行使が認められると解されている[5]。反抗を制圧し、手錠をかけ、腰縄をつけることなどがこれに当たる。このように、実力行使は警察比例の原則に基づいて認められるため、逮捕されたからといって必ずしも手錠がかけられるわけではない。一般には逮捕状を呈示し被疑事実と執行時刻を確認・読み上げて連行する形が取られる。



緊急逮捕


検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる(刑事訴訟法210条1項)。これを緊急逮捕という。


緊急逮捕した場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならず、逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない(刑事訴訟法210条1項)。



現行犯逮捕


現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人という(刑事訴訟法212条1項)。また、刑事訴訟法に定められた罪を行い終ってから間がないと明らかに認められる者も現行犯人とみなされる(準現行犯、刑事訴訟法212条2項)。現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(刑事訴訟法213条)。


検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない(刑事訴訟法214条)。



英米法における逮捕


英米法における逮捕は被疑者を裁判官に引致するための制度である[2]


アメリカでも逮捕は令状主義が原則であるが、合衆国憲法では厳格な令状主義はとられておらず、連邦最高裁が重罪(felony)とされる犯罪については犯人であると信ずる「相当な理由」(Probable cause)があれば令状なく逮捕できるとしているため、実際には、原則と例外が逆転しており、逮捕(Arrest)のほとんどは無令状逮捕(arrest without warrant)であるとされる[6][7][8]。ただし、アメリカの刑事手続では逮捕後24時間以内(州によっては最大72時間以内)に捜査を終了させ身柄を裁判所に引き渡す必要がある[9]


また、アメリカでも講学上または一般用語として現行犯逮捕が用いられることもあるが、一般にはarrest with warrant(令状逮捕)とarrest without warrant(無令状逮捕)という区別で議論されることのほうが多い[6]。そもそもアメリカの刑事手続では重罪(felony)とされる犯罪について広い範囲で無令状逮捕(arrest without warrant)が認められており、例えば強盗事件では相当の理由(probable cause)があれば事件から1週間を経過していても無令状で逮捕できる[6]


アメリカの刑事手続では逮捕に関しては比較的緩やかな基準で許容される一方、逮捕後には直ちに裁判所が関与してその正当性が審査されるという制度がとられている[9]。裁判官による逮捕の相当性の審査は逮捕前の事前審査よりも逮捕後の事後審査のほうに重点を置いた制度となっている[6]



国際刑事裁判所の刑事手続における逮捕


国際刑事裁判所の刑事手続では、予審裁判部が、検察官の要請により、捜査のために必要とされる命令及び令状を発する権限を有する(国際刑事裁判所に関するローマ規程第57条3)。


被疑者の身柄確保は、捜査の開始後、検察官の請求により予審裁判部が被疑者に係る逮捕状を発付して行う(国際刑事裁判所に関するローマ規程第58条1)[10]。ただし、任意出頭が確保できる場合には、検察官は、逮捕状を求めることに代わるものとして、被疑者に出頭を命ずる召喚状の発付を予審裁判部に請求することができる(国際刑事裁判所に関するローマ規程第58条7)[10]


逮捕状の執行は被請求国の司法制度が機能している限りは、国際刑事裁判所への国際協力・司法上の援助として実行される[10]


なお、国際刑事裁判所は、原則として、被請求国に対して国家又は外交上の免除に関する国際法に基づく義務に違反することとなる引渡しの請求を求めることができない(国際刑事裁判所に関するローマ規程第98条)。自国に滞在する外交官の外交特権などを考慮したものである[11]



逮捕と人権



無罪推定の原則



逮捕された被疑者は、市民的及び政治的権利に関する国際規約第14条2項にもあるように、刑事上の事実認定や法上の取り扱いにおいて無罪を推定されている立場である。



逮捕と大衆意識


日本人の大衆意識としては、逮捕は有罪判決と同然、すなわち「逮捕(すること)=有罪(にすること)」が一般的であるとされ、被疑者が身柄を確保されることはしばしば「犯人逮捕」と呼称されていたことがあり、犯人ではなく容疑者の呼称が多く用いられるようになっても、以下の理由から日本におけるこのイメージが根強く残っている。



  1. 相当程度確実な証拠が得られなければ逮捕しないことが多いこと、現実に逮捕・起訴された場合の有罪率(起訴有罪率)の高さ(「精密司法」を参照のこと)。検察官は、間違いなく公判維持・有罪にできると考える事件以外は、嫌疑不十分による不起訴(又は起訴猶予)の処分を行う[要出典]

  2. 被疑者が心神喪失など精神面での障害がない成人であれば、ほぼ確実に実名報道される(精神科に通院中または通院歴がある者については、いじめや偏見の対象になりやすいため、その事実が判明して以降は実名が出なくなることが多い)。後日冤罪などで無罪が確定したとしても、実名報道したメディアには謝罪する義務が一切課せられていない(2000年代からは報道が適切だったかを省みる「検証報道」が行われるようになっている)。

  3. 被疑者としての氏名が世間に知られた以上、大きな社会的制裁を受けたのに等しい。村八分さえ起きたことがある(名張毒ぶどう酒事件)。


  4. マスメディアによる犯人視報道(メディアパニッシュメント)- 刑事裁判においては、裁判官に予断を抱かせるような証拠を提出すること自体が制限されているが(例:伝聞証拠の禁止)、メディアにおいてはそのような制約がないため、法廷では証拠能力が認められないような情報源に基いたものも含んだ被疑者・被告人の犯人視報道が野放しとなっている[12]


また、これらの副産物として「逮捕そのものが法的措置に基づく制裁行為である」という誤解も蔓延しており、逮捕を伴わない書類送検が行われた場合に一般大衆から「悪いことをしたのに、なぜ逮捕されないのか」などのような議論をされることが少なくない。



身体検査


拘置所や留置場では被疑者が違法な物品を施設内にもちこまないように身体検査の一種である検身がおこなわれる。なかには体腔検査が行われることがあるが、その妥当性について米国で問題になった事例がある。



海外渡航等の制限


海外渡航の際に、逮捕歴の有無により外国への入国が認められなかったり、査証(ビザ)の免除が受けられないことがある。例えば米国のビザ免除プログラムは逮捕歴のある者には適用されないため、逮捕歴のある者は入国に先立って査証を取得する必要がある[13]



参考文献



  • 河上和雄、中山善房、古田佑紀、原田國男、河村博、渡辺咲子 『大コンメンタール 刑事訴訟法 第二版 第4巻(第189条〜第246条)』 青林書院、2012年

  • 平野龍一 『刑事訴訟法』 有斐閣〈法律学全集〉、1958年

  • 村瀬信也、洪恵子 『国際刑事裁判所 - 最も重大な国際犯罪を裁く 第二版』 東信堂、2014年

  • 日本弁護士連合会刑事弁護センター 『アメリカの刑事弁護制度』 現代人文社、1998年



脚注


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  1. ^ 河上和雄 & 渡辺咲子 2012, p. 190.

  2. ^ ab平野龍一 1958, p. 99.


  3. ^ 警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。


  4. ^ 30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪に関する被疑事件。


  5. ^ 最高裁判所第一小法廷判決 1975年4月3日 、昭和48(あ)722、『傷害被告事件』。

  6. ^ abcd日本弁護士連合会刑事弁護センター 1998, p. 16「アメリカの刑事手続概説」茅沼英幸執筆部分


  7. ^ 法務省. “諸外国の刑事司法制度(概要)”. 2016年9月17日閲覧。


  8. ^ 島伸一. “日本の刑事手続とアメリカ合衆国の重罪事件に関する刑事手続(軍事裁判を含む)の比較・対照及び日米地位協定17条5項(c)のいわゆる「公訴提起前の被疑者の身柄引渡し」をめぐる問題について”. 神奈川県. 2016年9月17日閲覧。

  9. ^ ab日本弁護士連合会刑事弁護センター 1998, p. 17「アメリカの刑事手続概説」茅沼英幸執筆部分

  10. ^ abc村瀬信也 & 洪恵子 2014, p. 236「ICCの刑事手続の特質」高山佳奈子執筆部分


  11. ^ 村瀬信也 & 洪恵子 2014, p. 237「ICCの刑事手続の特質」高山佳奈子執筆部分


  12. ^ そのため、後日に被疑者・被告人による名誉毀損の損害賠償請求が認められるケースもある。


  13. ^ 米国大使館 ビザ免除プログラム 「有罪判決の有無にかかわらず逮捕歴のある方、犯罪歴(…)がある方…に該当する旅行者は、ビザを取得しなければなりません。ビザを持たずに入国しようとする場合は入国を拒否されることがあります。」[リンク切れ]




関連項目



  • 法律上の身柄拘束処分の一覧

  • 令状

  • 現行犯逮捕

  • 緊急逮捕


  • 逮捕・監禁罪 - 不法に人を逮捕した場合は逮捕・監禁罪となる。


  • 特別公務員職権濫用罪 - 特定の公務員が職権を濫用して人を逮捕した場合は特別公務員職権濫用罪となる。

  • 当番弁護士制度

  • 転び公妨

  • ミランダ警告




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