クフィル (航空機)
IAI クフィル/IAI כפיר
クフィルC7 IDF/AF 第144飛行隊
用途:戦闘機
分類:戦闘機、戦闘攻撃機
製造者:IAI社
運用者
イスラエル(イスラエル空軍)
アメリカ合衆国(海軍・海兵隊)
エクアドル(エクアドル空軍)
コロンビア(コロンビア空軍)
スリランカ(スリランカ空軍)
初飛行:1973年
生産数:220機
運用開始:1975年
運用状況:現役(コロンビア、エクアドル、スリランカ)
クフィル(Kfir)は、イスラエルのイスラエル・エアクラフト・インダストリー(Israeli Aircraft Industries,IAI)がミラージュIIIをベースに独自改良を行って開発した戦闘機。Kfirとはヘブライ語で子ライオンの意。日本語ではクフィールと表記されることもある。
目次
1 概要
1.1 開発の経緯
1.2 特徴
1.3 イスラエル空軍への配備
1.4 輸出
1.5 実戦
2 形式・派生型
3 仕様 (クフィルC2)
4 採用国と採用を検討した国
4.1 採用国
4.2 採用を検討した国
5 登場作品
5.1 アニメ・漫画
5.2 ゲーム
6 脚注・出典
7 関連項目
8 外部リンク
概要
開発の経緯
1960年代、イスラエル空軍ではミラージュIIIをはじめとするフランス製戦闘機を主力としていた。しかし、1967年の第三次中東戦争後、シャルル・ド・ゴール政権の中東外交政策転換によりフランスからイスラエルへの武器輸出が停止される。そのため、50機を発注済みであったミラージュ5(ミラージュIIIの電子機器を簡素化し、実戦環境での稼働率向上を狙った派生型)の引き渡しも行われなかった。これがクフィル開発の発端となった。
IAIは、既にダッソー社との間に機体のライセンス生産の契約を結んでいたミラージュ5に、第三国から図面を盗み出し製造したアター9C エンジンを組み合わせることで、独自生産型ミラージュとも言うべきネシェル(Nesher、ヘブライ語で鷲の意)を完成させた。一方で、イスラエル空軍は高地・高温条件下や兵装搭載時におけるエンジンのパワー不足に不満を持っていた。
そこで、同時期にアメリカ合衆国からF-4Eを導入した事から、ミラージュのエンジンをF-4Eに搭載されるJ79に換装し、能力向上を図る目的で計画された機体サルボが開発され、ネシェルとサルボの開発成果を組み合わせた機体であるクフィルの製作へと繋がった。
フランス製のミラージュIIIにJ79を搭載したサルボは、1970年10月に飛行した。この試作機に続いて1973年6月にラーム(Raam、ヘブライ語で雷鳴の意)と名づけられたプロトタイプが製作された。続いてバラク(Barak、ヘブライ語で電光の意)と名付けられた機体がIAIによって生産され、1973年10月6日に勃発した第四次中東戦争中に運用された。クフィルの名称でJ79に最適化された機体の量産開始は、第四次中東戦争終了後の1975年4月のことだった。
特徴
外見は、原型となったミラージュ5と似るが、アター9Cより2t以上(A/B使用時)推力が大きいJ79を搭載したことにより飛行性能が向上し、ペイロードも約1,500kg増加した。
J79を搭載するために、胴体には大きな改修が加えられている。エアインテークは拡大され、後部胴体は太くなり、熱に強いチタンも導入している。垂直尾翼基部にはアフターバーナー部冷却用の、後部胴体にはタービン冷却用の小型エアインテークが追加されている。また、重心を合わせるために尾部が0.6m短くなっている。
生産型であるクフィルC2からはエアインテーク肩部にカナード翼、機首先端にストレーキ、主翼にドッグトゥースが追加され、離着陸性能や旋回性能、高迎え角時の操縦性が大きく向上した。これらの改修(特にカナード翼の追加)は、後に本家であるミラージュIII/5の近代化改修機にも取り入れられている。なお、C2の「C」はカナードを意味するため、初期型は単にクフィル1と呼ばれたが、後にカナード翼(C2のものより小さい)とストレーキが追加されてクフィルC1と呼ばれるようになった。
アビオニクスは随時更新されており、エルタ製EL/M-2001B測距レーダーやMBT製二重コンピュータ操縦システムの他、後にグラスコックピット化もされた。
戦闘機ではあるが、余裕のあるペイロードと高度なアビオニクスにより対地・対レーダーミサイルやレーザー誘導爆弾にも対応しており、対地攻撃機としても運用可能。
イスラエル空軍への配備
量産開始直後の1975年4月に第101飛行隊[1]、1976年には第113飛行隊[2]にクフィル1が配備された。1977年には第101飛行隊のクフィル1が主生産型のクフィルC2に更新され[1]、第101飛行隊のクフィル1は第109飛行隊に移管された[3]。この頃にクフィル1がクフィルC1仕様に改修された[3]。1978年には第144飛行隊がクフィルC2の運用を開始した[4]。1979年には第113飛行隊のC1がC2に更新され[2]、1980年には第109飛行隊のC1もC2に更新された[3]。これらの飛行隊から放出されたクフィルC1は第254飛行隊に移管された[5]。1980年末頃には第149飛行隊がクフィルC2の運用を開始した[6]。
1984年には第254飛行隊が解体され、クフィルC1はイスラエル空軍からは退役となり、アメリカ海軍・海兵隊にリースされ"F-21 ライオン"として運用された[5]。またC2を運用していた第113飛行隊も解隊された[2]。1986年には第109飛行隊が解隊され[3]、1987年には第101飛行隊が運用機種をF-16D Block30に更新した[1]。この時点でクフィルの運用を続けていた部隊は第144飛行隊と第149飛行隊の2個飛行隊であった。1991年には第149飛行隊が解散し、最後に残っていた第144飛行隊は1994年頃に運用機種をF-16A/Bに更新した[4]。
前述のように、クフィル1(クフィルC1)は4個飛行隊、クフィルC2は5個飛行隊で運用されたことになるが、これらの飛行隊のうち、クフィルC7への更新が確認されているのは最後まで運用を続けた第144飛行隊のみである。
退役した機体は未だ多数が保管状態にあるとされ、一部はレストアと改修を受け海外保有国に輸出されている。
輸出
輸出も行われたが、アメリカによるJ79の再輸出許可が大幅に遅れたため少数の国にしか輸出されなかった。その中でアメリカ海軍・海兵隊はF-16Nが導入されるまでの間、F-21 ライオンの名称でクフィルをリースし、仮想敵機として運用した。アメリカ軍が外国製戦闘機を採用したのは第一次世界大戦時以来のことであり、その性能はMiG-21をよくシミュレートできると好評だったという。
2014年4月3日にIAIのジョセフ・ワイスCEOが明らかにしたところによると、IAIはクフィルの再生産を開始しており、販売のための活動も行っているという。受注についての詳しい発表はないが、アルゼンチンからの受注があったことは認めている。
実戦
1982年のレバノン侵攻でイスラエル空軍機が初めて実戦に投入され、A-4やF-4と共に対地攻撃を実施した。
1995年にエクアドルとペルーの間で起きたセネパ紛争では、エクアドル空軍機がミラージュF1と共にペルー空軍機3機を撃墜する戦果を挙げている。
スリランカ内戦では、スリランカ空軍機がウクライナから輸入したMiG-27と共にタミル・イーラム解放の虎に対する対地攻撃に従事した。
形式・派生型
- クフィルC1
- 初期型。当初はカナード翼を装備していなかったためクフィル1と呼ばれた。
- F-21A
アメリカ海軍・海兵隊が仮想敵機としてリースしたクフィルC1に用いた名称。愛称はライオン(Lion)。
- クフィルC2
- 主生産型。
- クフィルTC2
- クフィルC2の複座練習機型。機首が延長され、前方視界を確保するため垂れ下がった形状になっている。
- クフィルRC2
- クフィルC2の偵察機型。機首が延長され偵察用カメラ機材を搭載している。
- クフィルC7
- クフィルC2の改良型。エンジンに数分間だけ出力を5%増加させられる「コンバット・プラス」改修を施し、コックピットにはHOTAS概念を導入。電子機器も更新され、ハードポイントは2箇所増設された。イスラエル空軍機は最終的にC7仕様機に統一された他、コロンビアのクフィルC2もC7仕様に改修された。また、スリランカも追加発注により数機を配備している。
- クフィルTC7
- クフィルC7の複座型。
- クフィルC10
- アップグレード型。クフィル2000とも呼ばれ、南アフリカ共和国のチーターCによく似た形状をしている。レーダーをEL/M-2032へ換装し、アクティブ・レーダー誘導式ミサイルの運用が可能になった他、コックピットもグラスコックピット化された。エクアドルのクフィルC2が1999年よりクフィルCEの名称でC10仕様に改修されている。コロンビアのクフィルC2も同仕様に改修されたが、一部はレーダーを換装せず対地攻撃に最適化されたクフィルC12仕様になっている。
- クフィルTC10
- クフィルC10の複座型。
初期型のクフィル1
クフィルTC2 (複座練習機型)
クフィルRC2 (偵察機型)
アメリカ海軍のF-21A (クフィルC1)
コロンビア空軍のクフィルTC10
仕様 (クフィルC2)
出典: en:IAI Kfir
諸元
乗員: 1
全長: 15.65m (51ft 4.25in)
全高: 4.55m (14ft 11.5in)
翼幅: 8.21m(26ft 11.5in)
翼面積: 34.80m2 (374.60ft2)
空虚重量: 7,285kg (16,060lb)
運用時重量: 10,415kg (22,961lb)
有効搭載量: 6,065kg (13,343lb)
最大離陸重量: 14,670kg (32,340lb)
動力: J79-J1E アフターバーナー付ターボ
ドライ推力: 52.89kN (11,890lbf) × 1
アフターバーナー使用時推力: 83.40kN (18,750lbf) × 1
性能
最大速度: 2,440km/h (1,317kt)
航続距離: 770km (416nm)
実用上昇限度: 17,700m (58,000ft)
上昇率: 233.3m/s (45,930ft/min)
武装
- 固定武装
DEFA 550 30mm機関砲 × 2- ミサイル
サイドワインダー 空対空ミサイル
シャフリル 空対空ミサイル
パイソン 空対空ミサイル
マーベリック 空対地ミサイル
シュライク 対レーダーミサイル
- 爆弾
Mk 82 無誘導爆弾
- GBU-13 レーザー誘導爆弾(LGB)
- TAL-1/2 クラスター爆弾(CBU)
- デュランダル 滑走路破壊用特殊爆弾
- HOBOS
- ロケット弾
採用国と採用を検討した国
採用国
イスラエル
イスラエル空軍
第101飛行隊 (ファースト・ファイター・スコードロン)[1]- クフィル1 (1975年-1977年) / クフィルC2 (1977年-1987年)
第113飛行隊 (ホーネット・スコードロン)[2]- クフィル1 (1976年-1977年) / クフィルC1 (1977年-1979年) / クフィルC2 (1979年-1984年)
第109飛行隊 (ヴァレー・スコードロン)[3]- クフィルC1 (1977年-1980年) / クフィルC2 (1980年-1986年)
第144飛行隊 (ガーディアンズ・オブ・アラバ)[4]- クフィルC2 (1978年-1985年) / クフィルC7 (1983年-1993年)
第254飛行隊 (ミッドランド・スコードロン)[5]- クフィルC1 (1980年-1984年)
第149飛行隊 (スマッシング・パロット・スコードロン)[6]- クフィルC2 (1980年-1991年)
コロンビア
- コロンビア空軍
エクアドル
- エクアドル空軍
アメリカ合衆国
アメリカ海軍・アメリカ海兵隊 - イスラエル空軍で余剰化したクフィルC1を"F-21A ライオン"として導入し、仮想敵機として1984年から1988年頃まで運用した。
スリランカ
- スリランカ空軍
南アフリカ共和国
南アフリカ空軍 - チーター開発用にイスラエルで余剰となったC2及びTC2を購入。エンジンがJ79からアター・シリーズに再換装されている。
この他、民間軍事会社ATACが民間登録されたF-21Aを仮想敵機として使用している。
コロンビア空軍のクフィル
エクアドル空軍のクフィルCE
スリランカ空軍のクフィル
ATACのF-21A
採用を検討した国
アルゼンチン
ブラジル
スロベニア
フィリピン
メキシコ
台湾
登場作品
アニメ・漫画
- 『アイアン・イーグル』
- イスラエル空軍機がMiG-23の代役として登場している。
- 『SHIROBAKO』
- 劇中アニメの「第三飛行少女隊」にて登場する。また、13話以降のオープニングでは藤堂美沙が搭乗している。
- 『エリア88』
- アスラン王国空軍の傭兵部隊の機体として登場。サキ・ヴァシュタール(エリア88の司令官)などが使用。
ゲーム
- 『MetalStorm』
- 戦闘機(週替り)で「ゼファー」の名称で稀に登場。最強の戦闘機として有名。旋回優良機。200-300コイン。
- 『エースコンバット2』
- プレイヤーの操作可能な機体として登場。
- 『フィクショナル・トルーパーズ』
- メカール共和国軍のランク2として選択可能。
- 『萌え萌え大戦争☆げんだいばーん』
- 鋼の乙女「リオン」のモデルとなっている。一部のステージではサポートユニットとしてクフィルが直接登場する。
脚注・出典
- ^ abcdaeroflight.co.uk 101sqn
- ^ abcdaeroflight.co.uk 113sqn
- ^ abcdeaeroflight.co.uk 109sqn
- ^ abcaeroflight.co.uk 144sqn
- ^ abcaeroflight.co.uk 254sqn
- ^ abaeroflight.co.uk 143sqn
関連項目
- ネシェル
- ナメル
- チーター
- イスラエル空軍博物館
- イントレピッド海上航空宇宙博物館
外部リンク
- Globalsecurity.org - Kfir F-21A
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